[ワシントン 27日 ロイター] – 米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長は27日、米年次経済シンポジウム(ジャクソンホール会議)での講演で、米経済は新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)下での緊急プログラムを縮小する基準に向けて引き続き前進しているとの認識を示した。また、現行のインフレ高進は収束する可能性が高いとし、テーパリング(量的緩和の縮小)開始時期については年内が適切との見方を示しながらも、具体的な時期については明言を避けた。
講演では、米経済の完全雇用を達成しようとする中で、FRBが最終的に利上げを決定する際には慎重な姿勢を維持すると示唆。「一過性」のインフレ率への対応により雇用の伸びが妨げられることは回避したいと強調した。
また、FRBが実施している月額1200億ドルの債券買い入れプログラムの縮小開始時期については「年内」が適切との大半の当局者の見方に同意するとした。
7月の米連邦公開市場委員会(FOMC)以降で雇用が100万人近く増加するなど、労働市場の回復に向け「さらなる進展」があり、今後もその進展が続くと想定。ただ、雇用増加と同時に、新型コロナウイルス変異株「デルタ」の感染とそれに伴うリスクが一段と拡大しているとも述べ、警戒感を示した。
前日にはFRBのタカ派が資産購入には効果がないとして早期のテーパリングを要求したが、パウエル氏は「今後のデータと変化するリスクとを慎重に評価する」として明言を避け、正確な縮小時期に関する議論に結論は出ておらず、感染力の高いデルタ変異株がもたらす公衆衛生上および経済上のリスクに立ち向かわなければならないとした。
講演を受け、パウエル議長は金融引き締めを急いでいないとの見方が広がり、S&P総合500種は最高値を更新。米債利回りは低下し、ドルは下落した。
ボケ・キャピタル・パートナーズの最高投資責任者(CIO)、キム・キャピタル氏は「パウエル氏はテーパリングが行われることを理解しているが、すぐには行われないだろう」と述べた。
<調整の用意>
パウエル氏は、FRB当局者が「引き続き堅調な雇用創出を予想している」と指摘。「デルタ変異株の影響についてはこれからより多くのことが分かってくるだろう」とし、「現時点では政策が良い状況にあると信じているが、これまで通り、われわれには調整する用意がある」と語った。
また、次の重要な決定は金利を現行のゼロ近辺からいつ引き上げるかというもので、経済が最大雇用に達しインフレ率が持続的に2%に達したとFRB当局者が納得するために、「実質的により厳格なテスト」を実施する考えを示した。
この日発表された7月の個人消費支出(PCE)価格指数は、食品とエネルギーを除いたコア指数が前年同月比3.6%上昇と、前月と同じ伸びになった。2%の柔軟な平均インフレ目標を設けるFRBは、PCE価格指数を物価の目安としている。
講演では、現行のインフレ高進が一過性とみる理由の説明に大半の時間が費やされ、サプライチェーン(供給網)のボトルネックが緩和する可能性が高いことやグローバリゼーションが物価抑制につながることなどが指摘された。
現行の物価上昇の速いペースは「懸念材料」ではあるが、FRBが政策変更を早め、特に政策金利を現行のゼロ近辺から早急に引き上げれば悪影響が出ると想定。「われわれは最大雇用の達成に向け多くの課題を抱えており、2%の物価目標を持続的に達成したかどうかは時間が解決してくれる」とした。
また「中央銀行が一時的な要因に対応して政策を引き締めるなど時期を失した政策変更は雇用やその他の経済活動を不必要に鈍らせ、インフレ率を望ましい水準よりも低下させてしまう。現在の労働市場には依然としてかなりのスラック(需給の緩み)があり、パンデミックも続いているため、このような誤りは特に害を及ぼす」と語った。