自民党総裁選で高市早苗前総務相(60)が、国会議員票と党員・党友票の双方で善戦している。討論会などで幅広い政策課題をよどみなく語っていることに加え、安倍晋三前首相が「本気モード」(若手)で支援しているためだ。決選投票の可能性が高いと見て、1回目に2位以上を死守したい岸田文雄前政調会長(64)の陣営は、焦りを募らせている。
日本記者クラブ主催の18日の討論会。候補者同士の質疑で高市氏は「恐縮ですが、河野候補にお願いします。国民年金(基礎年金)を全額税金でというアイデアはかなりの増税になると思うのですが」と下馬評で優位とされる河野太郎規制改革担当相(58)に年金改革で真っ先に切り込み、存在感を示した。
報道各社の情勢調査で、高市氏の国会議員票は、河野氏と岸田氏に次ぐ。党員・党友票に関する調査でも、河野氏が優勢だが、岸田氏に迫っている。選挙戦の軸と目された両氏の間に割って入る勢いだ。
要因の一つが高市氏の弁舌だ。討論会やテレビ番組で、外交・安全保障や皇位継承など「得意分野」だけでなく、新型コロナウイルス対策や社会保障、経済についても自身の考えをすらすらと説明する場面が目立つ。党関係者は、笑顔と関西弁を交えた語り口が「ソフトな保守派に見える」と評した。
もう一つの要因は安倍氏の「猛烈なサポート」だ。態度未定の閣僚経験者によると、「高市氏は話がうまい」という安倍氏の電話に「そうですね」と相づちを打っただけで数時間後に知人から「先生は高市氏支持なんですね」との問い合わせがあったという。また、支持を決めかねていたベテランは、安倍氏からの電話で自身が高市陣営の役職に就いたことを知ったと明かした。
安倍氏がここまで高市氏に入れ込むのは、自身が基盤とする保守層をつなぎ留め、「キングメーカー」としての立場を強化・誇示する狙いがあるとみられる。ただ、党内には「高市氏が伸びているのは細田派だけ」との見方もある。
岸田陣営は危機感を強めている。21日の選対会議では、出席者が「複数の議員が岸田氏支持から高市氏に変わった」と報告した。中堅は「高市氏の2位もあり得る。脅威だ」と語った。岸田陣営の複数の細田派議員によると、安倍氏から高市氏支援を求める電話が何度もかかっている。
高市氏が1回目で2位に入ると、「2位―3位連合」で河野氏の勝利を阻もうという岸田、高市両陣営のもくろみは揺らぐ。岸田陣営にはタカ派色を敬遠する向きも少なくなく、決選投票で高市氏支援に回る保証はない。高市陣営幹部は「河野総裁になるかもしれない」と語った。