[27日 ロイター] – ロシアはウクライナ国境付近に部隊や戦車、重火器を集結。西側諸国はロシアが侵攻に踏み切る可能性を憂慮している。
ロシアがウクライナ国境付近に約10万人の部隊を送り込み、ウクライナとロシアの間の緊張はこの数カ月高まる一方だ。
米英をはじめとする西側諸国は、ロシアが、西側の安全保障同盟である北大西洋条約機構(NATO)にウクライナが加入するのを断固阻止する試みの一環として侵攻を準備しているのではないかと危惧している。
ロシアは侵攻の意図を繰り返し否定してきた。だがロシア軍は2014年、ウクライナ南部のクリミア半島を占領し、ウクライナ東部の一帯を実効支配する分離派勢力を支援してきた。
ロシア軍部隊の集結状況は衛星画像に捉えられており、ウクライナの北部、東部、南部の国境を囲むように基地に部隊が集まっているのがわかる。
12月末、米国を本拠とする宇宙技術企業マクサー・テクノロジーは、「当社の高解像度衛星画像では、今月に入ってクリミア半島及びウクライナ国境に近い西部ロシアの複数の演習地で、ロシア軍の新たな動きが数多く見られた」と表明した。
マクサーは、10月以降に国境地帯に新たに持ち込まれたロシア軍の軍備の中に、歩兵戦闘車BMPのほか、自走砲や対空兵器の存在を確認している。
以下の画像からも、ウクライナに近い複数拠点における過去2年間のロシア軍の増強ぶりが分かる。
ロシアによるクリミア半島の併合以降、ウクライナの防衛費は、2014年のGDP比わずか2%から、現在では約6%まで増大した。
ウクライナの兵力は現役軍人で20万人以上。ロシアの4分の1にも満たないが、2014年以降は西側諸国による軍事援助により大幅に増強されている。米国からは対戦車ミサイル「ジャベリン」、トルコからは無人機(ドローン)が提供されている。
ロシアのロストフ州で行われた軍事演習中、歩兵戦闘車の前を歩く兵士。2021年12月10日撮影(2022年 ロイター/Sergey Pivovarov)
<想定される侵攻のパターン>
ロシアはウクライナ侵攻計画を断固否定しているが、軍事アナリストはロシア軍はいつでもウクライナに侵攻できる態勢にあるとみている。
米シンクタンク戦略国際問題研究所(CSIS)のセス・ジョーンズ、フィリップ・ワシエレフスキー両氏は、ロシアの初動として、ウクライナの軍事指揮統制システムや公共通信、電力網を標的としたサイバー攻撃などが想定されると指摘。
次に、空爆とミサイル攻撃によりウクライナ空軍に打撃を与えた上で、地上部隊が数百キロにわたり前進すると考えられるという。CSISでは、ロシア軍部隊が侵攻する場合、ロシア政府が何を目的とするかによって、そのルートは複数想定できるとしている。その多くは鉄道沿いだ。
シナリオ1:東部からの攻撃
CSISによれば、ロシアは侵攻後、ウクライナ領のドニエプル川東岸全域を占領し、ウクライナ工業の中心である東部を奪いつつも、ウクライナを「経済的に存続可能な状態」として残す可能性がある。
シナリオ2:西部まで侵攻し全面占領
ロシアがウクライナ東部で成功を収め、ロシア国内の戦意が高揚したままであれば、ドニエプル川を越え、農村地帯が広がる西部へと部隊を進める可能性がある。黒海沿岸では、全面的な占領への鍵となるオデッサ及びその港湾施設を占領する必要も出てくる。
シナリオ3:制海権の確保
別の選択肢として、ウクライナの主要都市圏での頑強な抵抗を避け、黒海沿岸を攻撃する可能性がある。オデッサを占領すれば、ウクライナは海路への、ひいては国際市場へのアクセスを絶たれ、黒海経由の貿易へのロシアの影響力が高まる。
早期に行動を起こさない場合、ロシアは夏まで進攻を待たなければならなくなる。3月にはこの地域は悪名高い「ラスプティツア」と呼ばれる時期となり、道や田野は雪解けによる泥でぬかるんだ状態となるからだ。
CSISのジョーンズ氏は、泥で機甲師団の進軍速度が低下してボトルネックが生じ、対戦車ミサイルの標的になりかねないと説明する。
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<ロシアとの対立でウクライナはどう変わったか>
ウクライナはロシアと西側諸国の関係における火種となっている。緊張状態は2014年のクリミア半島併合のずっと前から始まっていた。
2004年、ウクライナ大統領選挙をきっかけに大規模な抗議行動が起き、いわゆる「オレンジ革命」が発生した。ウクライナ最高裁が投票結果の無効を決定して再投票を命じ、親欧州派の野党指導者ビクトル・ユシチェンコ氏が大統領に選出された。この抗議行動とユシチェンコ氏の当選が、ウクライナがロシアの影響下から離れ、欧州との緊密な協調へと動き出す最初の兆候となった。
2013年、街頭での抗議行動が再燃した。ビクトル・ヤヌコビッチ大統領(当時)の政権が、欧州連合との通商・連携協議を停止し、代わってロシア政府との経済関係を復活させると突然発表したためだ。抗議参加者は数カ月にわたってキエフで大規模な抗議集会を開催し、同年末には80万人もの参加者を数えるに至った。
2014年初、抗議行動の過激化
主にキエフのマイダン広場付近で行われていたヤヌコビッチ大統領に反発する抗議行動が次第に過激化し、数十人もの抗議参加者が殺害された。
クリミア半島の占領と東部での戦闘
2014年の2月から3月にかけてロシアはクリミア半島に侵攻し、これを併合した。4月には、親ロシアの分離勢力が東部ウクライナのドンバス地方の独立を宣言し、戦闘が始まった。
マレーシア航空17便の撃墜
2014年7月、マレーシア航空17便がミサイルにより撃墜され、乗員乗客298人全員が死亡した。調査団は同機の撃墜に使われた兵器をロシア由来のものと断定したが、ロシア政府はこの結論を否定している。
ケルチ海峡危機
2018年11月、クリミア半島に接するケルチ海峡でロシア国境警備隊とウクライナ艦艇が衝突。ウクライナの親欧米派ペトロ・ポロシェンコ大統領は戒厳令を布告した。
なお続く衝突
ウクライナ東部におけるウクライナ軍とロシアの支援を受けた分離主義勢力との間では頻繁に停戦合意が結ばれているが、ほとんどの場合、すぐに破棄されている。同地域での暴力的衝突は止まっていない。
<ロシアがウクライナにこだわる理由>
ウクライナでは、特に都市化が進み工業の盛んな東部でロシアの影響力が大きい。ロシアとの国境沿いの多くの地域や南部のクリミア半島では、主としてロシア語が用いられている。
現在のロシアとウクライナに別れる地域のつながりは、キエフがスラブ系民族によるキエフ大公国(キエフルーシ)の最初の首都となった9世紀にさかのぼる。キエフ大公国は988年、ウラジーミル大公の統治下でキリスト教(正教会)を国教とした。
ロシアのプーチン大統領は2021年6月、ロシア人とウクライナ人は、「単一の歴史的かつ精神的な空間」を共有する単一民族であり、最近両国を隔てている「壁」は悲劇的であると述べた。ウクライナ政府はこうした主張を否定している。
プーチン大統領が危惧しているのは、西側諸国との関係強化によってウクライナがロシアを標的とするNATOミサイルの発射拠点となる可能性、そして欧米寄りの考えを持つロシア国民によるプーチン大統領への抵抗に火をつけることである。NATOがウクライナの加盟を承認し、ロシアを攻撃可能な兵器がウクライナに配備されるという展望は、ロシア政府から見れば「レッドライン」(越えてはならない一線)なのだ。
ウクライナの西側シフトは貿易にも明白に現れている。ウクライナの国際貿易額のうち、ロシアのシェアは現在8%にすぎないが、対EUのシェアは42%に上昇している。
ロシアの次の動きを断定することはできないが、ウクライナでの戦争勃発は両国に大きな犠牲をもたらすだろうという点でアナリストらの見解は一致している。
西側の軍事アナリストらは、ロシアが戦わずしてクリミア半島を占拠した2014年に比べ、ウクライナ陸軍の練度は上がり、装備も高度になっている上、自国中心部の防衛に向けて士気も高いと指摘する。
西側諸国はロシアによる侵攻に備えて厳しい制裁を準備する一方で、エスカレートする対立を緩和しようと瀬戸際の外交対話を続けている。
(翻訳:エァクレーレン)