[フランクフルト 10日 ロイター] – 欧州中央銀行(ECB)は10日、資産買い入れ策を第3・四半期に終了する方針を示した。インフレ懸念がロシアのウクライナ侵攻による影響を巡る懸念を上回る中、量的緩和策の縮小を加速し、利上げに向けた地合いを整えた。

ECBは、総額1兆8500億ユーロのパンデミック緊急購入プログラム(PEPP)を今月末に終了させる計画を確認。声明で「今後のデータで資産買い入れ終了後も中期的なインフレ見通しが弱まることはないという予想が裏付けられれば、理事会は資産購入プログラム(APP)を第3・四半期に終了する」とした。

具体的には、APPを通した買い入れは4月に400億ユーロ、5月に300億ユーロ、6月に200億ユーロを見込むとした。これまでは、 第2・四半期に400億ユーロ、第3・四半期に300億ユーロ、第4・四半期に200億ユーロとしていた。

その上で、第3・四半期の買い入れは「データに依存する」とし、インフレ見通しが変われば計画が修正される可能性もあると表明。金利の調整については、資産買い入れ終了後「しばらくしてから」とし、金利変更の「少し前」に資産買い入れを終了するという従来の文言から変更した。

<ウクライナ戦争は「重大な転機」>

ラガルドECB総裁は記者会見で、ロシアとウクライナの戦争で成長が鈍化する一方、物価が押し上げられる恐れがあるとし、「欧州にとり重大な転機」になると指摘。「エネルギー価格や商品価格の上昇や国際商取引の混乱、信頼感の低下という形で、経済活動やインフレが重大な影響を受ける」とし、「ロシアのウクライナ侵攻によって経済見通しに対するリスクは著しく増大し、下方に傾いている」と述べた。また、ECB当局者が異なる見解を示していることも認めた。

実際、今回の理事会では一部ハト派が、ロシアとウクライナの戦争で緩和縮小の停止を検討することが正当化されると主張。ただ、ユーロ圏のインフレ率が2月に5.8%と過去最高に達する中、インフレ懸念が討議の主流になった。

ラガルド総裁は、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)が経済に及ぼす影響は薄まりつつあり、労働市場に状況改善やサプライチェーンのボトルネックが緩和する見通しは、ユーロ圏経済が基調的に健全な状況にあることを示していると指摘。利上げの時期については、「明らかに『しばらくしてから』というのは、データに依存するオープンな時間軸ということだ」と述べた。

<インフレ見通し上方修正>

ECBはまた、今年のインフレ見通しを平均で5.1%とし、昨年12月時点の3.2%から大幅に引き上げた。ただ、来年は2.1%への鈍化を見込む。12月時点での予想は1.8%だった。

ECBは今回の理事会で政策金利は据え置いたが、市場が現在見込む年末までの利上げ幅は約43ベーシスポイント(bp)。理事会前は約30bpだった。

INGのエコノミスト、カーステン・ブルゼスキ氏は「金融政策を極めて緩やかに正常化させていく過程で最大限の柔軟性を維持するという点で、今回の決定は良好な妥協だった」とし、「ECBが年内に利上げに着手する可能性はまだある」と指摘。コメルツバンクのチーフエコノミスト、イェルク・クレーマー氏は「ECBがインフレ目標は実質的に達成されたとの見方を示していることを踏まえると、今年は25bpの利上げが2回実施される」との見方を示した。

決定を受けユーロが上向いたほか、独10年債利回りが上昇するなどの動きが出た。

<ウクライナ支援>

ラガルド総裁は、欧州連合(EU)の広範なウクライナ支援の一環として、ECBが同国に対する通貨スワップの提供などを検討していると表明。「現在、懸命に作業を進めている。欧州委員会のほか、各国当局と協調して、ウクライナ国民と政府を支援するための方策を向こう数日間で提供したいと考えている」と述べた。