[東京 18日 ロイター] – 日銀の黒田東彦総裁は18日、金融政策決定会合後の会見で、ウクライナ危機による原油市況の高騰で4月以降、日本の物価の伸び率が目標の2%付近まで上昇する可能性があると述べた。ただ、コストプッシュ型のインフレは持続せず、経済を下支えするため粘り強く金融緩和を続ける必要があると強調した。米利上げで円安が進んでいるが、円安が日本経済にプラスという基本構造に変化はないとの認識を改めて示した。
<原油高騰、4月以降に物価2%の可能性>
黒田総裁は、ロシアによるウクライナ侵攻に伴う各国のロシア制裁の動きは、様々な経路で世界の経済・物価動向に影響を及ぼすとの考えを示した。
具体的には、1)エネルギー、穀物、金属を中心とした国際商品市況の大幅上昇、2)ロシア関連の貿易取引の縮小やサプライチェーンへの悪影響、3)国際金融資本市場の不安定な動きや先行きの不確実性の高まりが家計や企業のコンフィデンスの悪化をもたらす可能性、などを挙げた。これらは「ロシアとの経済的な結びつきが強い欧州を中心に世界経済の下押し要因になる」と予想した。
日本経済への影響としては、資源の大半を輸入に頼っているため「当面、資源価格の上昇の影響が最も大きい」と指摘。4月以降の物価について「今後の原油価格の動向や政府の対応にもよるが、石油製品の上昇を主因に2%程度の伸びとなる可能性がある」と述べた。
しかし、物価2%の到達は「金融政策を修正する必要性を全く意味しない」と明言した。「物価が2%程度になっても、コストプッシュ型だ」とし、長期的には企業収益の減少や家計の実質所得の減少を通じて景気を押し下げ「物価を押し上げる方向にはならない」と述べた。
「原油高による一時的な物価上昇に対しては金融政策を引き締める必要はない。むしろ経済をサポートする金融緩和を続けていくことが必要だ」と強調した。
日銀は17─18日に開いた決定会合で、個人消費の鈍化で景気の現状判断を引き下げた一方、原油高騰で物価見通しを強めの表現に変更した。景気回復シナリオは維持したものの、ウクライナ情勢が「日本の経済・物価に及ぼす影響はきわめて不確実性が高い」とし、新型コロナウイルス感染症の動向とともに注意が必要だとした。
決定会合後の声明文では、所得から支出への「前向きの循環メカニズム」の文言が落ちていたが、黒田総裁は堅調な企業収益や設備投資計画、春闘が順調なことを挙げ「前向きの循環メカニズムは基本的に続いていると思う」と述べた。
<金利差拡大による円安進行には否定的>
為替相場について、黒田総裁はファンダメンタルズを反映して安定的に推移するのが望ましいとしつつ、円安が全体として経済・物価をともに押し上げ「日本経済にプラスという基本的構図に変わりはない」との見方を示した。輸入物価上昇については、円安というより資源価格上昇の影響が圧倒的に大きいと説明した。
外為市場でドル/円は一時119円台へ上昇し、約6年1カ月ぶりの円安水準となった。欧米中銀との金融政策スタンスの違いでさらに円安が進み、日銀が政策対応する余地があるかとの質問には「そもそも、そうなるとは思っていない」と答え、金利格差と為替レートの相関関係はそれほどはっきりしていないことが実証研究で明らかになっていると述べた。
<ロシアのデフォルト、金融システムに影響あると思わず>
市場では、ロシアに対する金融制裁に伴い、ロシアのデフォルト(債務不履行)リスクが意識されている。黒田総裁は、2014年のクリミア併合以降、日米欧とも金融機関はロシアへのエクスポージャーを相当減らしていると指摘。
ロシア国債がデフォルトする可能性はまだあると思うが、「それが日米欧の金融システムに相応の影響があるとは思っていない。もはやロシアの金融システムとはきわめて縁が薄くなっている」と語った。
(和田崇彦、杉山健太郎)