ロシアによるウクライナに対する軍事侵攻の開始から1か月余りとなります。
ウクライナの各地でロシア軍とウクライナ軍が戦闘を続けていて、大勢の市民が国外へ避難しています。戦闘の状況や関係各国の外交などウクライナ情勢をめぐる28日(日本時間)の動きです。
(日本とウクライナ、ロシアのモスクワとは6時間の時差があります)
29日 トルコで停戦交渉へ 歩み寄り見られるか
ロシアとウクライナとの停戦交渉について、ロシア大統領府のペスコフ報道官は28日、「代表団がきょうトルコに向かっている。29日に交渉が開かれるだろう」と述べたほかトルコ外務省の報道官もNHKの取材に対し、29日にトルコのイスタンブールで行われるという見通しを示しました。
交渉について、ウクライナのゼレンスキー大統領は、ロシアの複数のメディアとのインタビューの中で「ウクライナの安全保障と中立化、非核の立場に向かう準備ができており、最も重要なポイントだ。ウクライナとロシア双方にとっての安全保障の問題であるため、議論されている」と述べました。
ロシアは、ウクライナに対してNATO=北大西洋条約機構への加盟を法的に認めさせない「中立化」を要求していますが、ゼレンスキー大統領はインタビューで、NATOの加盟に代わる新たな安全保障の枠組みについて議論する用意がある考えを示したものです。
ロシアメディア ゼレンスキー大統領へインタビュー 侵攻後初
ロシアの複数のメディアは、ロシアがウクライナに軍事侵攻を開始してから初めてウクライナのゼレンスキー大統領へのインタビューを行い、27日、その内容を明らかにしました。
インタビューを行ったのは、ロシアの独立系メディアの「メドゥーサ」や「ドーシチ」それに、大手新聞社の「コメルサント」などのジャーナリスト4人で、オンライン形式でロシア語で行われました。
このうち「メドゥーサ」は、動画でも掲載し、このなかでゼレンスキー大統領は、ロシアによる軍事侵攻が続く現状を明らかにするとともにあらゆる面で破壊的な影響を及ぼしていると改めてロシアを非難しています。
インタビューが掲載された直後、ロシアの通信当局は声明を発表し、「ロシアメディアはインタビューの公開を控えるよう警告する。取材したメディアについては責任の所在を確認する」としてロシアメディアは、インタビューの内容を引用も含めて発信しないよう警告しました。
さらに、検察当局も声明で「膨大な量の反ロシアのプロパガンダとうその情報が定期的に投稿されている」としたうえで、インタビュー内容を掲載したメディアに対して捜査を開始することも辞さない構えを示しました。
プーチン政権は、国内外で拡大する反戦の声に神経をとがらせていて、ゼレンスキー大統領自身が明らかにする人道危機などの現状がロシアメディアを通じて国内に広がることを強く警戒しているものとみられます。
これまでにジャーナリスト12人死亡 10人けが
ウクライナのベネディクトワ検事総長はロシアの軍事侵攻によりこれまでに国内外の合わせて12人のジャーナリストが死亡し、10人がけがをしたことを明らかにしました。
そのうえで、「プーチンの侵略についての真実を明らかにすることはますますリスクが高くなり、危険になってきている」と危機感を示しました。
ジャーナリストの被害については、13日にはアメリカの複数のメディアがアメリカ人のジャーナリストで映像作家のブレント・ルノーさんがロシア軍に銃撃され死亡したと伝えているほか、アメリカのテレビ局FOXニュースが14日にウクライナの首都キエフ近郊で取材チームが攻撃を受け、カメラマンとウクライナ人ジャーナリストの合わせて2人が死亡したことを明らかにしています。
また、23日にはロシアの調査報道サイト「インサイダー」が首都キエフを取材していた所属のジャーナリスト、オクサナ・バウリナさんがミサイル攻撃を受けて、死亡したと伝えています。
ロシアとウクライナ 停戦交渉 早ければ28日から対面実施見通し
ロシアとウクライナ双方の仲介役を担ってきたトルコの大統領府は27日、両国の次回の停戦交渉がイスタンブールで行われることを発表しました。
ウクライナ側の代表団は28日から30日まで対面形式で行われるとしていて、ロシア側の代表団は29日と30日に交渉が行われるとしています。
停戦交渉は最近はオンライン形式で進められてきましたが、今回対面で行われると、ベラルーシで今月7日に実施されて以来となります。
これについて、ウクライナのゼレンスキー大統領はビデオメッセージを公開し「私たちは和平を求めている。停戦交渉は良い機会だ」としたうえで、「ウクライナの主権と領土の一体性が保たれることは当然で、疑いの余地はない。ウクライナの安全保障が確約されることも必須だ」と述べました。
これまでの交渉では、戦闘の停止やロシア軍の撤退などを求めるウクライナ側と、ウクライナの「中立化」や「非軍事化」などを求めるロシア側の主張の隔たりは埋まっておらず、対面での交渉を再開させることで具体的な進展がみられるかが焦点です。
ゼレンスキー大統領 停戦交渉に期待感
ロシアとの停戦交渉が近く対面形式で行われる見通しになったことについて、ウクライナのゼレンスキー大統領はビデオメッセージを公開し、「私たちは和平を求めている。停戦交渉は良い機会だ」と述べ期待感を示しました。
そのうえで、「私たちの優先事項は変わらない。ウクライナの主権と領土の一体性が保たれることは当然で、疑いの余地はない。ウクライナの安全保障が確約されることも必須だ。私たちの目標は明白で平和と日常の暮らしをできるだけ早く取り戻すことだ」と述べました。
また、ゼレンスキー大統領は現在の戦況について、「ウクライナ軍は、ロシア軍の侵攻を食い止めているほか、いくつかの地域では押し返している」と述べました。
WHO事務局長「医療機関への攻撃で71人死亡」
WHO=世界保健機関のテドロス事務局長は27日、自身のツイッター上で、ロシアによる軍事侵攻が続くウクライナでこれまでに医療機関や救急車などに対して72回の攻撃が行われ、合わせて71人が死亡、37人がけがをしたと明らかにしました。
そのうえで、テドロス事務局長は「命を救うことに専念する医療従事者や施設への攻撃が繰り返されていることに憤慨している。和平が唯一の解決策だ。戦争をやめるようロシアに引き続き求める」と強く非難しています。
欧州各地の劇場 マリウポリの子どもたちを追悼
激しい戦闘が続くウクライナ東部のマリウポリでは今月16日、多くの子どもたちが劇場に身を寄せ、地面に白い文字でロシア語で「子どもたち」と書いてロシア軍の攻撃を避けるためだったと見られていますが、結局、ロシア軍の攻撃を受けて多数が犠牲になったと伝えられています。
このためヨーロッパ各国にある劇場の周辺では27日、白い文字で「子どもたち」と地面に書いて追悼する動きが広がっています。
このうち、ドイツ・ベルリンの劇場は子どもたちも参加して地面に白いスプレーでロシア語で「子どもたち」と書いて、その様子を撮影した動画をSNSに投稿しました。
動画とともに「『子どもたち』という文字は上空からも見えていたのにロシア軍は攻撃した」としてロシア軍の対応を非難しました。
同じような追悼の動きはヨーロッパ各地の劇場周辺でも行われ、イギリスとチェコ、そしてリトアニアにあるウクライナ大使館は写真を投稿しています。
また、ウクライナのクレバ外相はみずからのSNSに、ハンガリーの首都ブダペストで行われた追悼イベントとしてマリウポリの劇場で犠牲になった人数と伝えられている300人分の靴がドナウ川の川岸に並べられた写真を投稿しました。
この川岸は第2次世界大戦中、多数のユダヤ人が虐殺された場所で、クレバ外相は「マリウポリで起きたことはナチスによる犯罪行為と同じだ。悲劇は繰り返してはならない」というメッセージを投稿しました。
次回停戦交渉 イスタンブールで合意
トルコ大統領府は、27日、エルドアン大統領とロシアのプーチン大統領が電話会談を行ったと発表しました。
このなかで両首脳は、ウクライナ情勢や停戦交渉の進展をめぐって議論したほか、エルドアン大統領が、早期の停戦や人道状況の改善の必要性を強調したということです。
そのうえで双方は、ロシアとウクライナによる次回の停戦交渉が、イスタンブールで行われることで合意したということです。
停戦交渉を巡っては、ウクライナ側の代表団の関係者が27日、近くトルコで行われる見通しを明らかにしていました。
米政府 バイデン大統領発言の火消し急ぐ
アメリカのバイデン大統領がロシアのプーチン大統領について、「権力の座に残しておいてはいけない」と述べ、ロシアの体制転換を求めたとも受け止められる発言をしたことについてアメリカ政府は火消しに追われています。
このうちブリンケン国務長官は27日、訪問先のイスラエルで行われた会見で、「バイデン大統領としては、プーチン大統領にはウクライナを含むいずれの国に対しても戦争を仕掛けたり侵略したりする権限はないと述べただけだ。われわれはロシアの体制転換について戦略を持っているわけではない」と述べました。
また、アメリカのNATO大使のスミス氏も27日、CNNテレビに出演して同様の釈明をしました。
バイデン大統領の発言を巡っては、演説直後にもホワイトハウスの高官が「大統領は体制の転換について議論しているわけではない」と釈明していますが、ロシア側が「バイデンが決めることではない」などと反発していました。
一方、フランスのマクロン大統領はバイデン大統領の発言について27日、地元テレビに対し「ことばや行動によって事態を悪化させることなくロシアの軍事侵攻をとめなければならない。私ならそのようなことばは使わない」と述べています。
アメリカ政府が大統領の発言の火消しを急ぐ背景には、ロシアを刺激し、さらに事態が悪化することを避けたい考えがあるものとみられます。
「歓喜の歌」でウクライナと連帯 ポーランド
ウクライナの隣国ポーランドでは、ベートーベンの「歓喜の歌」を歌ってウクライナとの連帯を示そうという催しが行われました。
これはウクライナとの国境に近いポーランド南東部の都市、ジェシュフで地元の市民団体が行ったもので、ポーランド人やウクライナから避難してきた人、合わせて100人以上が参加しました。
参加者は両国の国旗やEUの旗を持って集まり、ベートーベンの交響曲第9番の「歓喜の歌」をウクライナ語とポーランド語で歌い、連帯をアピールしました。
集会を企画した市民団体の担当者は「『歓喜の歌』はヨーロッパを象徴する歌だと思うのでウクライナがEUに加盟するのを応援するために歌いました」と話してました。
参加者の中にはウクライナ西部のリビウから逃れてきたという女の子もいて、「ウクライナがEUに加盟できたら平和が訪れると信じています。戦争が終わるよう、そしてすべてがうまくいくよう願っています」と話していました。
ウクライナ報道官「占領地域の住民投票 法的に無効」
ウクライナ東部のルガンスク州の一部を事実上支配する親ロシア派の武装勢力の指導者、パセチニク氏は27日、記者団に対して「近いうちに、ロシアに加わるかどうかを問う住民投票が行われると思う」と述べ、支配地域のロシアへの編入の賛否を問う住民投票を実施する意向を示しました。
ロシア通信によりますと、これについてロシア上院で憲法や法律を担当するクリシャス議員は「ロシアは、ルガンスクとドネツクの主権を承認している。これらの行政当局はそれぞれの憲法に従って決定する権利がある」と述べ、支持したということです。
一方、ウクライナ外務省のニコレンコ報道官は「一部の占領地域で行われる住民投票など法的に無効だ。世界中のどの国も認めず、ロシアの孤立が深まるだけだ」とツイッターに投稿し、非難しました。
また、ロシア下院のカラシニコフ議員も「今はまだその時期ではない。前線で、地域の運命が決まろうとしている時に、この問題に気をとられるべきではない」と慎重な姿勢を示しました。
ロシア国防省は25日、ルガンスク州の93%を支配下に置いたと主張しています。
隣国ルーマニアへ船で避難相次ぐ
ロシア軍によるウクライナへの侵攻が続く中、南部から隣国ルーマニアに国境の川を船で越えて避難する人たちが相次いでいます。
UNHCR=国連難民高等弁務官事務所のまとめによりますと、26日の時点でルーマニアにはポーランドに次いで2番目に多いおよそ58万人がウクライナから逃れてきています。
このうち、南東部イサクチャは、おもにウクライナ南部から、国境となっているドナウ川を船で渡って避難してくる人たちの拠点となっていて、27日も対岸のウクライナ側から100人余りを乗せた船が到着していました。
避難してくる人たちのほとんどは、女性と子どもで、船を下りたあとボランティアから食事やお茶などを受け取ると、安心した表情を見せていました。
戦闘が続く南部ヘルソンから2人の子どもなどを連れて避難してきたという34歳の女性は「きのうから店に食料品がなくなりました。人道危機の状態で、ヘルソンももうすぐマリウポリのようになると思います」と話し、9歳の息子は「家の近くで爆発があったときは怖かったです。戦争が早く終わってほしい」と話していました。
市民少なくとも1119人が死亡 国連発表
国連人権高等弁務官事務所は、ロシアによる軍事侵攻が始まった先月24日から今月26日までに、ウクライナで少なくとも1119人の市民が死亡したと発表しました。
このうち99人は子どもだということです。
亡くなった人のうち、360人が東部のドネツク州とルガンスク州で、759人はキエフ州や東部のハリコフ州、北部のチェルニヒウ州、南部のヘルソン州など各地で確認されています。
多くの人たちは砲撃やミサイル、空爆などによって命を落としたということです。
また、けがをした人は1790人に上るということです。
今回の発表には、ロシア軍の激しい攻撃を受けている東部マリウポリなどで、確認が取れていない犠牲者の数は含まれておらず、国連人権高等弁務官事務所は、実際の数はこれよりはるかに多いとしています。