最近、日曜日の夜は毎週「鎌倉殿の13人」を観ている。頼朝の愛妾・亀(江口のりこ)が登場して以来、ドラマの流れが亀によって引き起こされる騒動に振り回されている。先週は第13回、「源平合戦の新局面!木曾義仲登場」だったが、亀騒動が引き続きドラマの中心のような雰囲気。亀の存在感が際立っていた。このドラマの脚本は三谷幸喜。三谷ファンならずとも観たくなる。その一人である私も珍しく大河ドラマを見続けている。自己流に解釈すればこのドラマ、横軸が鎌倉幕府をになった13人の武士たちが引き起こす政治劇。時間軸につれた武士たちの人間模様が面白い。これに対して縦軸は頼朝の周囲を彩る女たちの物語。鎌倉幕府のゴッドマザーとなる政子(小池栄子)が、頼朝の“愛妾”に嫉妬して引き起こす亀騒動の顛末が見どころ。これにダブるように頼朝の元愛人・八重(新垣結衣)と、最側近である義時(小栗旬)の男と女の心の綾が描き出される。
三谷脚本のいいところは、庶民から遠く離れた最高権力者たちの人間ドラマが、庶民目線で描かれる点だ。牛若丸こと義経(菅田将暉)がわがままな戦争大好き人間だったり、義時の父・時政(坂東彌十郎)が戦争以外は役立たずの、どこにでもいそうなおじさんのように描かれたりする。さて問題の亀騒動。前回は鹿狩りの帰りに亀の隠れ家に忍び寄った頼朝が、そこで正妻・政子と鉢合わせする一幕が描かれた。頼朝がほうほうの体で退去したあと、亀と政子が相対する場面となる。頼朝との絶縁を承知したあと亀が反撃に転ずる。「黒髪の乱れも知らず打ち伏せば、まずかきやりし人ぞ恋しき」、和泉式部の歌だ。女目線から見た頼朝という男の優しさを暗示する。その後、一転して開き直ったかのように政子に忠告する。喋り方も現代版に変調する。「伊豆の小さな豪族の家に育った行き遅れがさー、急に御台所と呼ばれるようになってサー・・・」、まるで不良少女のようだ。でも出自は低いが亀には知恵と教養がある。和泉式部日記も読んだことがない政子は、グーの根も出ない。
この辺が三谷幸喜の真骨頂だろう。ついでに言えば九郎義経が一夜を共にした女性は、頼朝の育ての親・比丘尼(草笛光子)の孫、その名を里という。これを演じるのはかの三浦透子だ。アカデミー賞、国際長編映画賞を受賞した濱口竜介監督作品、ドライブ・マイ・カーの主演女優だ。ドラマの中の一夜とはいえ、若手の人気俳優・菅田将暉に添わせるなど、視聴率を意識したキャスティングの跡も見え隠れしている。それはともかく、和泉式部の和歌を引き合いにして女に男の優しさを語らせた三谷幸喜の女性感が、この場面に遺憾無く発揮されているような気がした。時間軸に沿って展開されるドロドロして生々しい戦国武将の男と男の人間ドラマ、それに寄り添うように男と女、女同士の心の綾を織り込んでいく。ここに、この大河の面白さがあるような気がする。次週は源頼朝と木曽義仲の争いを描く「都の義仲」とある。
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