Brian K. Sullivan
- ライン川やドナウ川では船舶の運航が困難な状態に-物流脅かす
- 中国の長江も水位低下、電力不足招く-テスラやトヨタの生産に影響
世界中で河川の姿が消えつつある。
米国からイタリア、中国に至る地域で河川の水位が低下し、泥が堆積した不毛な土手が姿を現し、泥混じりの砂がにじみ出ている。運河の水は枯渇し、貯水池は干上がった。
世界は加速する気候変動の真っただ中にあり、深刻な経済的影響を受けている。水路を失うことは航路や農業、エネルギー供給、さらには飲料水にまで及ぶ深刻なリスクを意味する。
何世紀にもわたって商業にとって必要不可欠だった河川が今では細り、化学製品や燃料、食料品や他の商品の世界的な物流を脅かしている。
ドイツとオランダ、スイス経済の柱であるライン川はここ数週間に時折、ほとんど航行不能の状態に陥った。中欧を通って黒海に注ぐ全長1800マイル (約2900キロメートル) のドナウ川も流れが悪くなっている。欧州の河川・運河を使った貿易による地域経済への貢献は約800億ドル(約11兆円)に上る。
中国では、アジア最長の大河、長江が猛暑で大きな打撃を受けた。水位低下により多くの主要水力発電所の電力供給が減少。上海などの大都市は節電のために照明を消し、米テスラは上海工場のサプライチェーンの混乱を警告した。トヨタ自動車と電気自動車(EV)用バッテリー世界最大手、中国の寧徳時代新能源科技(CATL)はいずれも生産を一時停止した。
米国のデンバーからロサンゼルスに至る地域住民4000万人の水源であるコロラド川の渇水は極めて深刻で、アリゾナ州やネバダ州などで2回目の厳しい取水制限が実施されている。コロラド川とその支流は約450万エーカーの土地をかんがいし、年間約1兆4000億ドルの農業・経済的利益を生み出している。
世界の水路が干上がった理由は複雑だ。天候にさまざまな影響を及ぼすラニーニャナ現象や多くの地域で長期化する干ばつ、あるいは単なる不運のせいもあるが、こうした変化をもたらした最大の要因は気候変動だ。
カリフォルニア大学ロサンゼルス校の気候学者、ダニエル・スウェイン氏は「多くの要因が重なり、こうしたとりわけ極端な現象につながった。ただ、気候変動が影響しているのは明らかで、それによって記録を塗り替えるか、その可能性のある熱波が複数発生する可能性が劇的に高まっている」と指摘した。
コロラド州ボールダーの米大気研究センター(NCAR)の科学者、イスラ・シンプソン氏は、地球の気温が上昇すれば、山の降雪が減り、夏の雪解け時期に川に流れ込む水量も減ることになると語った。
ラニーニャ現象に伴う世界的な気象パターンの混乱で、一部の地域は大雨、別の地域は干ばつに見舞われている。世界では2年連続でラニーニャ現象が発生しており、23年も続いて起きる可能性が高まっている。
コロンビア大学ラモント・ドハティ地球観測研究所のリチャード・シーガー教授は「現在の強いラニーニャ現象が北米と欧州、中東、南半球の干ばつと河川の流量低下につながっている」と述べた。
原題:World’s Rivers Are Turning to Dust, Done In by Bad Luck and Heat(抜粋)