梅川崇

  • ガバナンス強化の重要性も指摘、理事長人事の在り方見直しを提言
  • GPIFのPE投資、21年度末で時価総額3066億円と前年比約5倍に

元厚生労働相で、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の運用改革に携わった塩崎恭久氏はGPIFのベンチャー投資について、安全性を確保しつつ収益を最大化する選択肢の一つになるとの見方を示した。

  塩崎氏は、GPIFが金利上昇に備えた「脱・国債」の考えの下、2014年10月に基本ポートフォリオの比率を見直した際に厚労相を務めた。改革の前後で、国内債券への投資比率は60%から35%に、国内外への株式投資は24%から50%に変わった。

Japanese Health Minister Yasuhisa Shiozaki Interview
塩崎恭久元厚労相(2015年撮影)Photographer: Tomohiro Ohsumi/Bloomberg *** Local Caption *** Yasuhisa Shiozaki

  ベンチャー企業を含むプライベートエクイティー(PE、未公開株)への投資を可能にする枠組みも、その際に併せて導入された。GPIFによるベンチャー投資は、岸田文雄首相が6月に「新しい資本主義」の実行計画に盛り込んだことで注目を集めたが、その道筋が付けられたのは塩崎氏の厚労相就任中のことだ。

  塩崎氏はブルームバーグとのインタビューで「安全性を確保しながら最大限利回りを確保していくためには、成長するところへの投資がないといけない。その選択肢の一つはベンチャー企業を運用対象とするということだ」と述べた。

  一方でベンチャー投資は、一般的に1000件のうち3件程度しか当たらない「千三つ」と言われるほど成功率が低いことから、目利き力の育成が欠かせないと強調する。「むやみやたらにベンチャーに投資をするという話では全くないし、ベンチャー投資を増やしていくことを目的化してはいけない」と話す。

  GPIFのPE投資は、委託先機関が複数のファンドを組み入れて運用する「ファンド・オブ・ファンズ」形式が主流で、20年度から本格的に始まった。22年3月末時点で運用資産全体に占める割合は1%に満たないが、時価総額は3066億円と前年比で約5倍に増えた。

  GPIFは、PE投資のうちベンチャー企業への投資額がどの程度を占めているか、内訳は開示していない。日本経済新聞は7月、GPIFがベンチャーキャピタルのファンド経由で、国内のスタートアップへの投資に乗り出すと報じた。

理事長人事の仕組み再考を

  ベンチャー投資を含めて運用の多様化が進む中、塩崎氏はガバナンス(組織統治)体制の強化を進めることの重要性も指摘する。

  厚労相就任中に実施したGPIFのガバナンス改革では、理事長1人に権限が集中する独任制から合議制への移行を図った。現在の経営委員会は、9人の委員と、執行部から理事長を加えた体制で意思決定を行う。

  塩崎氏によれば、もともとはGPIFを独立行政法人から別の法人格に改める案で検討を進めていたが、内閣法制局から独立行政法人のままでも合議制に移行できると伝えられ、今の形に落ち着いたという。

  ただ独立行政法人のままでは、理事長人事が厚労相の判断で決定されるため、人選に当たっては経営委員の意向を反映させられるなどの仕組みに改めるべきだと主張する。例えば、同様に重要政策を合議制で決める日本銀行では、正副総裁の人事は国会の同意が必要となる。

  塩崎氏は「政治からの独立性をさらに高めるとするならば、理事長人事の在り方は考え直した方がいい」と語った。