[東京 22日 ロイター] – 日銀は21―22日に開いた金融政策決定会合で、金融政策の現状維持を全員一致で決めるとともに、先行き指針の文言も維持した。景気の下支えを優先する日銀の姿勢は、前日に大幅利上げの継続を決めた米国との違いが鮮明で、現状維持を発表した直後に円相場は対ドルで1円近く下落した。新型コロナウイルス対応の特別オペは段階的に終了することを決めたが、資金需要に応えるため、幅広い担保を裏付けに実施している「共通担保資金供給オペ」を金額無制限で実施するとした。
<長短金利目標、YCC下で初の全員一致で維持>
長短金利の操作方針は全員一致で据え置きを決定した。2016年9月のイールドカーブ・コントロール(YCC)導入以降、全員一致での現状維持は初。短期金利は引き続き日銀当座預金のうち政策金利残高にマイナス0.1%の金利を適用。長期金利は10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、上限を設けず必要な金額の長期国債の買い入れを行う。
日銀は10年物国債金利0.25%での指し値オペについて「明らかに応札が見込まれない場合を除き、毎営業日実施する」と改めて表明した。7月に審議委員に就任した高田創氏、田村直樹氏にとって、今回が初めての決定会合となった。
金融政策の先行き指針も維持した。当面は新型コロナ感染症の影響を注視し、企業などの資金繰り支援と金融市場の安定維持に努めるとともに、必要があれば躊躇(ちゅうちょ)なく追加緩和を講じると改めて表明した。政策金利は、「現在の長短金利の水準またはそれを下回る水準で推移すると想定している」とした。
日銀は2%の物価安定目標の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで長短金利操作付き量的・質的金融緩和を継続する。マネタリーベースについては、コアCPIの前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで拡大方針を継続するとした。
「FRB(米連邦準備理事会)は景気を犠牲にしてもインフレ抑制最優先の姿勢だが、日銀は賃金上昇を伴う持続的・安定的な2%物価目標の達成まで我慢強く緩和政策を実施するということで、コントラストがよりはっきりした」と、三菱UFJモルガン・スタンレー証券の六車治美チーフ債券ストラテジストは言う。
FRBは前日、0.75%の利上げを3会合連続で決めるとともに、年内に同規模の利上げを少なくとも1回実施することを示唆した。日銀は声明文で急速な円安に改めて警戒感を示したものの、日米の金融政策の方向性の違いから、円相場は日銀の会合終了後に1ドル=145.40円まで下落し、1998年8月24日以来、24年ぶり円安水準を更新した。
財務省の神田真人財務官は会合後の22日午後に記者団の取材に応じ、為替相場が乱高下したことをけん制。「過度な変動の場合には、あらゆる手段を排除することなく、適切な対応をとる」と述べた。
<コロナオペ後も幅広い資金ニーズを支援>
日銀はこの日の会合で、新型コロナの影響が中小企業などの一部に残っているものの「これらの中小企業等の資金繰りも改善方向にある」と判断し、新型コロナ対応特別オペを段階的に終了し、幅広い資金ニーズに応える資金供給に移行していくことを全員一致で決めた。
新型コロナ対応特別オペのうち、中小企業向けプロパー融資は期限を半年間延長して2023年3月末で終了する。この間、毎月1回、3カ月物の資金供給を実施する。制度融資分は期限を3か月間延長して12月末で終了するとした。こちらも、終了までの間は毎月1回、3カ月物の資金供給を行う。
金額無制限の共通担保資金供給オペは、9月27日に予定している次回実施分から変更する。
物価の見通しについては声明文の中で、今年末にかけてエネルギーや食料品、耐久財などの価格上昇により上昇率を高めた後は、これらの押し上げ寄与の減衰に伴い「プラス幅を縮小していく」との見通しを示した。
景気については、資源高の影響を受けながらも「感染症抑制と経済活動の両立が進む下で、持ち直している」と指摘。輸出や鉱工業生産は「供給制約の影響が和らぐ下で、基調として増加している」とした。生産については、7月の展望リポートで供給制約の長期化で「下押し圧力が強い状態」にあるとしていたが、表現が強めになった。個人消費は「感染症の影響を受けつつも、緩やかに増加している」とした。
日銀は経済の先行きは、新型コロナや供給制約の影響緩和で回復していくとの見通しを維持した。
(和田崇彦編集:青山敦子)