[東京 21日 ロイター] – 白井さゆり元日銀審議委員(慶應義塾大学教授)は21日、ロイターのインタビューに応じ、日銀は次期総裁の就任後に政策枠組みやコミュニケーションのあり方を包括的に見直し、わかりやすく柔軟性のある政策運営を目指すべきだと述べた。ただ、景気に影響を与えない「中立金利」は日本の場合「相当低いはずだ」と話し、次の総裁の下でも低金利政策は続き、大幅な枠組みの変更は見込みにくいとの見方を示した。
白井氏は、金利目標の設定には中立金利が重要になると指摘。ベースとなる短期金利の目標がどの水準が適切か決まれば、分析によって10年金利の目標も決まり、許容変動幅をそのままにするか拡大するか検討することになるが「今よりも柔軟性を高めていいのではないか」と述べた。
白井氏は11年4月から16年3月まで日銀の審議委員を務めた。黒田東彦総裁の下での10年間にわたる異次元の金融緩和について「やらないよりやって良かった。アベノミクスによって、超円高の下でのデフレ圧力がなくなったことは事実だ」と評価した。
しかし「マイナス金利政策の導入やYCC以降に日銀の政策に関するコミュニケーションがわかりにくくなった」という。日銀は20年3月から行っているコロナ対応特別オペで、貸出金利をゼロ%とする一方、利用額や金融機関の融資の性質に応じた付利を実施している。白井氏はこうした日銀の制度設計が「マイナス金利による銀行の負担の部分を減らしているように見える」と指摘した。
白井氏は新総裁の下での政策運営について「金融政策を市場・国民向けに全体的にわかりやすくシンプルにするのが最大のやるべきことだと思う」と述べた。「金融政策の操作目標を金利に転換している以上、量の目標は取るべきだ」とも指摘。黒田総裁の下での金融政策運営を包括的に検証し「政策の柔軟性を高めることが大事だ」とし、「景気変動に合わせて、低金利を維持しつつも、多少の調整ができるような仕組みの方がいい」と語った。「東京の国際金融センターとしての魅力を高めるためにも金利にもう少し変動が必要だ」とした。
その上で「金利は低い水準が維持されると思うし、政策の枠組みが大きく変わることではないと思う」とも述べた。
物価目標については、ピンポイントで数値を示すより、レンジで示す方がいいと指摘した。「世界的に以前より構造的にインフレになりやすい時代になったかもしれないという議論が増えている」とし、中国での生産年齢人口の減少や米中対立によるサプライチェーンの見直し、温暖化によるさまざまな感染症のまん延、脱炭素化の加速といった要因を列挙。新たな目標は「物価目標として2%を入れつつも、目標をピンポイントで示すと政策運営が硬直的になるので柔軟性を担保するためにレンジにしたらいいのではないか」と話した。
市場では、日銀の新体制発足後、早いタイミングで金融政策の修正が実施されるとの観測が出ている。白井氏は「金融政策運営を新しい体制になったからすぐに変えるのはあまりにも短絡的だ」と指摘。金融政策運営の総合的な見直しは「焦らず、時間を掛けてやるべきだ」と語った。
(和田崇彦、木原麗花 編集:石田仁志)