伊藤純夫、藤岡徹

  • 正常化か緩和の持続性強化かは結果次第、現在は緩和継続が適当
  • 物価の減速ペースは緩やかになる可能性、上振れ確率高まっている
日銀・田村審議委員(11月30日・都内) Photographer: Shoko Takayasu/Bloomberg

日本銀行の田村直樹審議委員は、金融政策の枠組みや2%の物価安定目標の在り方について適切なタイミングで点検や検証を行う必要があるとの見解を示した。その結果を踏まえて、金融政策運営が正常化に向かうのか、緩和の持続性を強化することになるかは結果次第だと語った。

  田村氏は11月30日に行った7月の就任後初の報道機関との単独インタビューで、「今後の物価や賃金、経済の動向を踏まえ、しかるべきタイミングで金融政策の枠組みや物価目標の在り方を含めて点検・検証を行うことが適当ではないか」と主張した。具体的なタイミングは「もうすぐ来る可能性もあるし、もう少し先になる可能性もある」と述べた。

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  日銀は2016年9月、経済・物価動向と政策効果に関する総括的な検証を受けて政策の枠組みを変更し、イールドカーブコントロール(長短金利操作、YCC)政策を導入した。21年3月には金融緩和の持続性確保を目的に政策点検を実施し、長期金利の変動許容幅を上下0.25%程度とすることなどを決めた。その後、現行緩和策の点検や検証の必要性を明確に表明した政策委員会メンバーは田村氏が初めて。

  田村氏は、点検・検証後には「金融緩和からの出口もあり得るし、さらに粘り強く金融緩和を行っていくという結果になっていくかもしれない」とし、結果を踏まえて予断なく検討する考えを示した。持続的・安定的な物価2%が展望できない現状では、「経済をしっかり支え、物価安定の目標を実現するため、金融緩和を継続することが適当だ」と語った。

  出口政策が必要な場合は、歴史的な低金利が長期化する中で「経験のないような事象が顕在化するリスク」も想定しておくべきだと指摘。「適切なタイミングで出口戦略あるいはその前段階として出口の方向感や選択肢について、市場とコミュニケーションを取る」ことによって、市場参加者に対応の検討や備えを求めることが金融市場の安定に重要との認識も示した。

  原材料コストの価格転嫁や円安を背景に消費者物価(生鮮食品を除くコアCPI)の伸びが加速し、10月は前年比3.6%上昇と約40年ぶりの高水準となった。田村氏は、来年度以降は2%を下回る水準に低下するとしつつも、減速ペースは緩やかになるとして「上振れするサブシナリオの確率も高まっている」と語った。

  持続的・安定的な物価2%の実現に不可欠な賃上げについては、好調な企業収益や物価上昇を背景に「高めの賃上げが実現される可能性が高まっている」と期待を示した。日本経済は外的ショックで物価が上昇する一方、コロナ禍での貯蓄やペントアップ(挽回)需要が景気を下支えする「稀有な環境にある」とし、物価や賃金の動向を予断なく謙虚に見ていく必要があると述べた。

  三井住友銀行出身の田村氏は、大規模緩和の長期化によって「発揮されるべき市場原理の効果を抑えてしまっている面は否めない」とみる。政策運営では「常に効果と副作用を比較衡量しながら、最も適切と考えられる政策を実施していく」重要性を指摘した。