[東京 26日 ロイター] – 日銀の黒田東彦総裁は26日、経団連の審議員会で講演し、20日に決めたイールドカーブ・コントロール(YCC)の運用見直しは「企業金融まで含めて、金融緩和の効果がより円滑に波及するようにするための措置」であるとした上で、「出口の一歩ということでは全くない」と強調した。
YCCの枠組みのもとで緩和を続け、賃金の上昇を伴う形で物価目標の持続的・安定的な達成を目指していくと述べた。
日銀は19―20日の金融政策決定会合で、10年金利の許容変動幅を従来のプラスマイナス0.25%からプラスマイナス0.5%に拡大することを決めた。
黒田総裁は、今年の春先以降、海外金利が上昇する中で例えば日本国債の10年金利より8―9年金利の方が高い、現物と先物の裁定が働きにくいなど、市場機能の低下がみられていたと指摘。国債の金利は社債や貸し出しの基準となるが、国債市場に生じたゆがみが社債のスプレッド拡大につながる例も出てきたとした。
「現在は企業等を取り巻く金融環境は全体として緩和した状態が維持されているが、これまで説明したような状態が続くと、企業の起債など金融環境に悪影響を及ぼす恐れがある」と語った。
日銀は10年金利の許容変動幅の拡大とともに、月間の国債買い入れ額を増額することなどを決めた。黒田総裁は、一連の措置で「低水準のイールドカーブを維持しつつ、より円滑なカーブの形成を促すことが可能になる」とし、20日の決定後の金融市場調節のもとで、ゆがみが生じていた10年金利は上昇したがそれ以外の年限の上昇は抑えられていると述べた。
<低インフレ・低成長脱却へ「重要な岐路」>
賃金については「基本的に上昇率は徐々に高まっていく」と述べ、非正規雇用を中心に労働需給のタイト化が見込まれることを第一の理由に挙げた。
その上で、賃金上昇の本格化のためにはウエートの大きい正規雇用の賃金も上昇する必要があると指摘。来春の労使交渉では、労働需給の引き締まりに加え、物価がどの程度賃金に反映されるのかが注目点だと述べた。
持続的な賃上げが広がっていくためには、収益が大きく改善している大企業を中心に賃上げが本格化するとともに「取引条件の改善などを通じて、収益増加の好影響が中小企業などにも広がっていく取り組みも求められる」と指摘した。
黒田総裁は、労働需給のさらなるタイト化が見込まれる中、価格や賃金を巡る企業行動も変化していくと話した。バブル崩壊以降、長期にわたって続いた低インフレ・低成長の流れを転換できるか「重要な岐路に差し掛かっている」と語り、緩和的な金融環境をしっかりと維持していくことで、企業の前向きな取り組みを最大限後押ししていくと述べた。
(和田崇彦 編集:田中志保)