ウクライナを訪問してゼレンスキー大統領と会談した岸田総理大臣は、インド、ウクライナ、ポーランドでの一連の外交日程を終え、日本時間の22日午後6時半ごろチャーター機でポーランドを出発し、帰国の途につきました。
23日朝、日本に帰国する予定です。

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ポーランドで首脳会談 ODAで支援意向示す

岸田総理大臣は日本時間の22日午後、隣国ポーランドの首都ワルシャワに移り、モラウィエツキ首相と首脳会談を行いました。

岸田総理大臣は共同記者発表で、侵攻の長期化により、ポーランドの負担も増えているとして、ODA=政府開発援助を通じて支えていく意向を示しました。

そのうえで、「ロシアのウクライナ侵略を一刻も早くとめるには、厳しい対ロ制裁の継続が重要だ。国際社会が結束してウクライナを支えられるよう、ことしのG7議長国として、ポーランドとも連携しながらリーダーシップを発揮していきたい」と述べました。

岸田首相 ポーランドに戻る

日本政府関係者によりますと、ウクライナの首都キーウを訪問していた岸田総理大臣は現地時間の21日夜、日本時間の22日の朝早く、キーウ中心部の駅を列車で出発しました。

そして、現地時間の22日午前5時前、日本時間の22日午後1時前、ウクライナに向かった際と同じ列車で、ポーランドのプシェミシルの駅に到着しました。

武装したポーランド軍の兵士に警護されながら、プラットホーム端から踏み切りを渡って待機していた車に乗り込み、到着してから10分余りの間に駅から出発しました。

松野官房長官「慎重に調整重ねた」

松野官房長官は22日午後の記者会見で、「今般の訪問は厳重な保秘を前提に、ウクライナ政府などと慎重に調整を重ねたうえで、秘密保全、安全対策、危機管理面などに遺漏のないよう最適な方法を総合的に検討した。厳に限られた者に限って情報管理を徹底し、必要な準備を行った」と述べました。

また外務省の小野外務報道官は記者会見で、「総理大臣官邸と外務省関係者が岸田総理大臣に同行している。現地の安全対策や各国首脳などのこれまでのキーウ訪問を踏まえ、最小限の人数とした。ウクライナ政府と慎重に調整を重ね、安全確保に万全を期した形で実施した。情報共有は厳に限られたものとするなど、十分に配慮して準備した」と述べました。

ゼレンスキー大統領 SNSで岸田首相訪問を歓迎

ウクライナのゼレンスキー大統領は21日夜、日本時間の22日未明、みずからのSNSにメッセージを投稿し「国際秩序の力強い守護者でウクライナの長年の友人である日本の岸田総理大臣をキーウに迎えたことをうれしく思う」としてウクライナ訪問を歓迎しました。

また、およそ2分間の動画を公開しみずから岸田総理大臣を出迎え、握手する様子や、ウクライナと日本の国旗が掲げられた部屋で2人そろっていすに座り写真撮影に応じる様子を紹介しました。

動画の中では、ウクライナ側と日本側の会談の一場面も映し出され、両国の友好関係をアピールしました。

岸田首相 ウクライナに殺傷能力のない装備品を支援へ

岸田総理大臣は訪問先のインドから日本に帰国せずにポーランド経由でウクライナに入り、首都キーウで日本時間の21日夜から22日にかけておよそ2時間40分、ゼレンスキー大統領と首脳会談を行いました。

この中で岸田総理大臣は、「ゼレンスキー大統領のリーダーシップのもとで祖国と自由を守るために立ち上がっているウクライナ国民の勇気と忍耐に敬意を表する」と述べました。

そのうえで、G7=主要7か国の議長国として5月の広島サミットではG7の揺るぎない結束を維持するとともに法の支配に基づく国際秩序を守り抜く決意を示したいという考えを伝えました。

そして、サミットではウクライナ情勢も主要な議題になるとして、オンラインで参加するよう要請したのに対し、ゼレンスキー大統領も応じる意向を示しました。

また、日本とウクライナの関係を「特別なグローバル・パートナーシップ」に格上げするなどとした共同声明を発表しました。両首脳は共同記者会見に臨み、岸田総理大臣は、「何としても、G7広島サミットまでにウクライナを訪問し、ゼレンスキー大統領と直接話し、日本の揺るぎない連帯を伝えたいと強く願っていた」と述べました。

そのうえで、「ロシアによるウクライナ侵略は国際秩序の根幹を揺るがす暴挙だ。キーウとブチャを訪問し、惨劇を直接目の当たりにしてこのことを改めて強く感じている」と強調しました。

さらに、これまでに決定や表明をしている総額71億ドルのウクライナへの支援を着実に実施するとしたうえで、新たに、ウクライナに殺傷能力のない装備品を支援するため、NATO=北大西洋条約機構の基金を通じて3000万ドルを拠出するほか、エネルギー分野などでの新たな無償支援として4億7000万ドルを供与すると明らかにしました。

また、2国間の関係を強化するため、情報保護協定の締結に向けた調整を開始すると説明しました。そして、「今後も日本ならではの形で切れ目なくウクライナを支えていく。ウクライナの美しい大地に平和がもどるまで日本はウクライナとともに歩んでいく」と述べました。

岸田首相「広島で一致した明確なメッセージを」

岸田総理大臣は、ゼレンスキー大統領との会談のあと、キーウ市内のホテルで記者団の取材に応じ「ゼレンスキー大統領からは、G7広島サミットではロシアによる核兵器使用の威嚇への対応などを取り上げてもらいたいという話があり、議長国として、法の支配に基づく国際秩序を守るためのリーダーシップを発揮する決意を新たにした。一致した明確なメッセージを発することができるよう準備を進めていきたい」と述べました。

また、今回のウクライナ訪問について「ゼレンスキー大統領からの要請を踏まえて、秘密の保持や危機管理、安全対策に万全を期すべく慎重にウクライナ側と調整し、実現した。戦時下にあることから、安全対策などの観点もあり、事前には厳格な情報管理を行ったが、内容や成果などについて、できるかぎり丁寧に説明させてもらいたい」と述べました。

一方、事前にロシア側に通告したかどうかについては、「外交上のやりとりなので、答えは控える」と述べるにとどめました。

ゼレンスキー大統領 G7広島サミットにオンライン参加する意向

ウクライナのゼレンスキー大統領は、岸田総理大臣との共同記者会見で「国際秩序の守護者でウクライナの昔からの友人だ。日本が、G7=主要7か国の議長国、さらに国連安全保障理事会の非常任理事国メンバーとして活動しているときに、岸田総理大臣の訪問が実現したことを非常にうれしく思う」と述べ歓迎するとともにこれまでの日本の支援に謝意を示しました。

そして、もっとも重要なテーマとして安全保障の問題について議論したとした上で「日本による人道支援に強い関心を抱いている。地雷をなくすための協力や復興に関する協力について強く期待している」と述べました。

さらに、医療や教育、エネルギーの分野における協力の可能性についても具体的に議論したとしています。

そのうえで、5月に行われるG7広島サミットにオンラインで参加する意向を明らかにしました。

ゼレンスキー大統領 中国の習近平国家主席との会談は確定せず

ウクライナのゼレンスキー大統領は、岸田総理大臣との共同記者会見で中国に対しウクライナの領土の一体性の回復などを盛り込んだ和平案について支持するよう呼びかけていることを明らかにしました。

その上で中国の習近平国家主席とオンライン会談の予定はあるかと聞かれたのに対し「シグナルは受け取っているが、何も確定はしていない。具体的な情報はない」と述べました。

浜田防衛相「引き続き 最大限の支援」

浜田防衛大臣は閣議のあとの記者会見で、今後のウクライナ支援について、「首脳会談の結果を踏まえ、政府としての検討に参画していきたい。引き続き、最大限の支援を行っていきたい」と述べました。

一方、浜田大臣は今回の訪問に関して、関係国の防衛当局に輸送や警護の協力を要請したか問われたのに対し、「防衛省・自衛隊として関与していない」と述べました。

松野官房長官「岸田首相 ポーランドで首脳会談」

松野官房長官は閣議のあとの記者会見で、「岸田総理大臣は、ポーランドではドゥダ大統領や、モラウィエツキ首相とそれぞれ会談を行い、ウクライナに対する軍事や人道支援の拠点として、最前線で対応するポーランドとの間で戦略的パートナーシップに基づき、ロシアによるウクライナ侵略への対応を含め2国間や国際場裏での協力強化を確認する予定だ」と述べました。

欧州メディア 岸田首相訪問への反応

岸田総理大臣がウクライナを訪問したことについて、フランスの有力紙ルモンドはG7=主要7か国では、これまでに日本を除くすべての国の首脳がウクライナを訪問していたことに触れながら「日本は安全上のリスクを理由に長いあいだ訪問をちゅうちょしていた。今回の突然の訪問は、ウクライナに対する日本やG7からの連帯や支援を伝えることを可能にするだろう」と指摘しています。

また、日本では、総理大臣が国会開会中に外国出張することに困難があるなど、訪問実現までには多くの課題があったなどと伝えています。

一方、イギリスの公共放送BBCは、同じ時期に中国の習近平国家主席がロシアを訪問したことに触れ「日本と中国の指導者は、紛争で敵対する国々に、それぞれ戦略的に訪問した」と指摘しました。

その上で「中国の指導者がモスクワを訪問したのは影響力を拡大させるためで、同じ時期に日本の指導者がウクライナを訪問したことは、地政学的な混乱の中で日本の立ち位置について強いメッセージを送るものだ」などと岸田総理大臣のウクライナ訪問の意義を分析しています。

米ホワイトハウス高官「ウクライナへの強い支援示す一例」

岸田総理大臣がウクライナの首都キーウを訪問しゼレンスキー大統領と会談したことについてアメリカ・ホワイトハウスのカービー戦略広報調整官は21日、記者会見で「日本がウクライナを支援するために、国際社会とともにどれほど力強く立ち向かっているかを示す一例だ」と述べて歓迎しました。

また、国務省のパテル副報道官は「われわれは、岸田総理大臣がウクライナの人たちを支援し、国連憲章やその普遍的な価値観を支持するために歴史的な訪問を決断したことを強く支持する」と述べました。

米駐日大使 「歴史的な訪問だ」

アメリカのエマニュエル駐日大使は21日自身のツイッターに投稿し、岸田総理大臣のウクライナ訪問について「歴史的な訪問だ」としたうえで「ウクライナの人々を守り、国連憲章の普遍的な価値を推し進めるものだ」と評価しました。

岸田首相 キーウの修道院を訪問 祈りささげる

岸田総理大臣は21日午後、首都キーウの中心部にある修道院を訪れました。

修道院の壁には戦闘で亡くなった兵士たちの写真が掲げられています。

岸田総理大臣は、多くの市民に見守られる中、白い菊の花で作られた花輪を壁の前に手向け、静かに祈りをささげていました。

岸田首相 ブチャ視察「日本国民を代表してお悔やみ、お見舞い」

ウクライナを訪れている岸田総理大臣は、21日午後、ロシアによる軍事侵攻で多くの市民が殺害されたキーウ近郊のブチャを視察しました。

このなかで広場が一時的に多くの遺体の埋葬場所になっていた教会を訪れ、犠牲者を悼んで献花しました。

ブチャの市長が日本の支援に対し謝意を述べると、岸田総理大臣は「ブチャの地に足を運び、残虐な行為に対して強い憤りを感じる。残虐な行為によって命を落とされた方、傷つかれた方々に日本国民を代表して心からお悔やみを申し上げ、お見舞いを申し上げる」と述べました。

また、教会の中で当時の状況を伝える写真パネルを前に説明を受けるなどし、30分ほど滞在しました。

ウクライナ外務次官「岸田首相訪問を歓迎」

ウクライナ外務省のジャパロワ第1次官は、日本時間の21日午後8時すぎ、ツイッターへの投稿で、「ウクライナは、岸田文雄総理大臣を歓迎します。この歴史的な訪問は両国の結束や強固な協力関係の象徴です。私たちの将来の勝利に向けた支援に感謝しています」とするメッセージを載せました。

投稿は、ウクライナ語と英語で書かれ、文末には日本語で「ようこそ」とも記載されているほか、ジャパロワ次官が、キーウの駅のホームに降り立った岸田総理大臣を歓迎する写真も掲載されています。

日本時間21日夜 岸田首相 キーウに到着

岸田総理大臣を乗せた列車は現地時間の21日正午すぎ、日本時間の午後7時すぎに首都キーウの中心部の駅に到着しました。

ウクライナの国旗と同じ青色と黄色の列車がゆっくりと駅のホームに入って停車すると、列車からは日本政府の関係者とみられる人たちが次々と降り立ちました。

現地に駐在する松田大使やウクライナ政府の関係者が出迎える中、岸田総理大臣は最後にホームに降り、ウクライナ外務省のジャパロワ第1次官と握手したりことばを交わしたりし、時折、笑顔も見せていました。

岸田総理大臣が到着したホームは事前に、厳しく立ち入りが制限されたほか兵士たちによる警備が敷かれ、岸田総理大臣は出迎えにきた車に乗り込みすぐに駅を離れました。

ウクライナからの避難者たち さらなる支援に期待する声

ウクライナから日本に避難している人たちからは訪問への感謝やさらなる支援に期待する声が聞かれました。

去年9月に首都キーウ近郊のブチャから避難し都内のウクライナ料理店で働いているスヴィトラナ・トロツァンさんは「先進国のリーダーである岸田総理大臣が現地を訪れることは私たちにとって大事な機会です。ウクライナの人たちが直面している恐ろしい出来事を見てもらいどのような支援が必要か理解していただきたいです」と話していました。

また、去年4月にウクライナ西部のリュボムリから日本に避難してきたナタリヤ・イェブトゥシュクさんは「今回の訪問はウクライナの民主主義や平和主義への支持を示すよい機会になると思います。日本には高い建築技術など今後の復興に向けて貢献してもらえると非常にありがたいです」と期待を寄せました。

ウクライナの避難者を支援している「日本ウクライナ友好協会」のコヴァリョヴァ・ナタリヤ理事長は「岸田総理大臣の訪問の決断に感謝したい。物資の輸送が滞っていたり車が不足していたりするなど現地にはさまざまな問題があり大統領との会談などを通じて解決への道筋を示してもらえたらありがたいです」と話していました。

首都キーウの人たち 復興支援に期待する声

岸田総理大臣のウクライナ訪問について、首都キーウの人たちからはウクライナへの復興支援に対する期待の声が聞かれました。

35歳の男性は「ウクライナにとって日本の総理大臣の訪問は非常に重要です。日本はウクライナから避難した人を受け入れてくれました。支援の継続を期待しています。日本はロシアと北方領土の問題を抱えながらも私たちを助けてくれていることを忘れてはならないと思っています」と話していました。

37歳の女性は「戦闘によって破壊された都市やインフラ施設の再建に向けた支援を期待したいです。日本の高い技術力があれば実現できると思います」と話していました。

77歳の男性は「けさのニュースで知りびっくりしました。これまでも友好関係を築いてきた日本の総理大臣が来てくれることはうれしいことです。日本が私たちから必要な支援について聞き、この戦争を止める必要性を理解してくれることを望んでいます。経済的な支援をはじめ、教育や技術面での支援も期待したいです」と話していました。

中国 岸田首相の訪問をけん制

岸田総理大臣がウクライナを訪問し、ゼレンスキー大統領と首脳会談を行うことについて、中国外務省の汪文斌報道官は、21日の記者会見で「国際社会は和平交渉を促すという正しい方向を堅持し、ウクライナ危機を政治的に解決するための環境を作り出すべきだ。日本には情勢の緩和に役立つことを行い、その逆のことをしないよう望む」とけん制しました。

地元広島からは被爆国として平和へのメッセージ発信期待の声

岸田総理大臣が日本時間の21日夜、ウクライナのゼレンスキー大統領と首脳会談を行うことについて、岸田総理大臣の地元で、2か月後にG7広島サミットを控えている広島市では、唯一の被爆国として平和へのメッセージの発信を期待する声が聞かれました。

市内に住む48歳の女性は、「日本としてウクライナに寄り添う姿勢を見せてほしい。サミットも含めて、パフォーマンスにならないようにしてほしい」と話していました。

また、73歳の男性は、「行くのが遅かったとは思うが、会談を通じ、唯一の被爆国として平和へのメッセージを広めてほしい。ウクライナに行くかどうかは、サミットも含めたこれからの日本の発信力に影響すると思う。どのような行動や発言をするのか注目している」と話していました。

政府 岸田首相がキーウ訪問し大統領と会談行うと発表

政府は、岸田総理大臣が21日、ウクライナのキーウを訪れて、ゼレンスキー大統領と首脳会談を行うと発表しました。

首脳会談では、岸田総理大臣がゼレンスキー大統領のリーダーシップのもとで祖国を守るために立ち上がっているウクライナ国民の勇気と忍耐に敬意を表し、日本と、日本が議長を務めるG7=主要7か国として、ウクライナへの連帯と揺るぎない支援を直接伝える予定だとしています。

また、ロシアによるウクライナ侵攻と力による一方的な現状変更を断固として拒否し、法の支配に基づく国際秩序を守り抜く決意を改めて確認するとしています。

そして、22日、ポーランドを訪問して首脳会談を行い、ウクライナ情勢をめぐる対応を含めた2国間や国際社会での協力強化を確認し、23日朝に帰国するとしています。

日本時間の21日午前 ポーランドの駅からウクライナに出発

岸田総理大臣を乗せた車は、ウクライナの隣国ポーランドのプシェミシルの駅に日本時間の午前、到着しました。

車列は、プシェミシル駅のウクライナ方面に向かう国際列車が利用するプラットホームの手前に直接、乗り入れました。そして、車列の1台目の車から、岸田総理大臣が降り、停車中の列車に乗り込みました。

このあと、岸田総理大臣に続き、外務省の山田外務審議官などの外務省関係者や、秋葉国家安全保障局長などの政府関係者が乗り込む姿が確認できました。段ボール箱に入った荷物を積み込む様子も確認できました。その後、列車は、各車両の扉を手動で閉めたあと出発しました。

ポーランドへはチャーター機を利用

岸田総理大臣は訪問先のインドからポーランドに入る際には政府専用機ではなく、チャーター機を利用しました。

岸田総理大臣のインド訪問にあわせて政府は、水面下で民間のビジネスジェットをチャーターしていました。

大リーグ、エンジェルスの大谷翔平選手が今月1日にアメリカから日本に帰国する際に使ったチャーター機と同じ機種で、10人あまりが搭乗できるということです。

チャーター機は、岸田総理大臣を乗せた政府専用機が出発する3時間あまり前、19日午後8時ごろに羽田空港を出発し、インドに向かっていました。

岸田総理大臣はインドでの一連の日程を終えたあと、空港に待機させていたチャーター機にひそかに乗り込み、日本時間の21日未明にインドを出発しました。そして、午前7時40分ごろウクライナに近いポーランド南東部の街、ジェシュフに到着しました。

政府としては、岸田総理大臣に同行する職員も最小限に絞るなど情報管理を徹底するためにチャーター機を利用したものとみられます。

岸田首相 インドからウクライナへ

岸田総理大臣は19日、日本をたってインドを訪れ、20日はモディ首相と首脳会談を行いました。

当初の日程では日本時間の21日午後、インドから帰国の途につく予定でしたが、岸田総理大臣は21日未明にチャーター機でインドを離れ、21日朝、ウクライナの隣国、ポーランドのジェシュフに到着しました。

その後、国境に近い街、プシェミシルまで車で移動して、列車に乗り込みウクライナの首都、キーウに向かっています。そして日本時間の21日夜、ゼレンスキー大統領と首脳会談を行うことにしています。

太平洋戦争後、日本の総理大臣が戦闘が続く国や地域を訪れたことはなく、日本の首脳によるウクライナ訪問は、去年2月にロシアが軍事侵攻を開始して以降、初めてとなります。

ゼレンスキー大統領との首脳会談で、岸田総理大臣は、G7議長国として、ロシアに対する厳しい制裁などで国際社会の結束を促すとともに、日本としても復興や人道面を中心に最大限のウクライナ支援を継続していく考えを伝えるものとみられます。

ウクライナには2月、アメリカのバイデン大統領が訪問するなど、G7各国の首脳が訪れています。岸田総理大臣も1月にゼレンスキー大統領と電話で会談した際に、訪問の要請を受け、5月のG7広島サミット前には実現したいとして検討を続けていました。

岸田総理大臣はゼレンスキー大統領との会談を終えたあと、再びポーランドに移動し、首脳会談を行うことにしていて、23日の朝に帰国することにしています。

ウクライナ訪問めぐる経緯

ウクライナには、去年2月の軍事侵攻開始以降、ヨーロッパ各国首脳らが相次いで訪問し、岸田総理大臣も水面下で模索してきました。

去年6月には、ドイツでのG7サミット出席にあわせて訪問することが検討されましたが、実現には至りませんでした。

最大の課題は安全の確保です。各国の首脳は、軍隊や特殊機関なども動いて訪問したとされていますが、日本の自衛隊には、海外での要人警護などに対応できる明示的な規定がなく、難航しました。

去年12月にも訪問の検討が行われ、関係国の協力を得て警護態勢の構築を試みましたが、ウクライナでの戦闘が激しさを増したことなどもあり、見送られました。

そして、ことしG7の議長となった岸田総理大臣。1月6日にはゼレンスキー大統領と電話で会談し、現地への訪問を要請され「検討する」と応じました。

先月には、アメリカのバイデン大統領、イタリアのメローニ首相が相次いで訪問し、G7の首脳で訪れていないのは岸田総理大臣だけとなっていました。

政府内では「G7広島サミットまでに何としても実現すべきだ」という意見が強まり、十分な安全確保に向けて、関係国との調整を加速させていました。

各国首脳の訪問状況

去年2月の軍事侵攻開始以降、各国首脳は、相次いでウクライナを訪問しました。

去年3月、ポーランドなど東欧3か国の首脳が訪れ、ゼレンスキー大統領と結束を確認しました。

去年4月には、G7=主要7か国のメンバー、イギリスの当時のジョンソン首相、5月にカナダのトルドー首相、6月には、フランス、ドイツ、イタリアの3か国の首脳が夜行列車で一緒に現地入りしました。

一方、アメリカは、ブリンケン国務長官ら高官が訪れたものの、バイデン大統領の訪問は実現しておらず、動向が焦点となっていました。

そうした中で、侵攻開始から1年になるのを前に、2月、バイデン大統領が電撃訪問し、国際社会を驚かせました。アメリカ政府高官の話として、訪問計画は、ハリス副大統領の周辺にも知らせず、極秘裏に実行されたことが伝えられています。

去年就任したイギリスのスナク首相や、イタリアのメローニ首相も、すでにウクライナを訪れています。

ウクライナ 日本に財政支援などで主導的な役割を期待

ウクライナ政府は、ロシアと対抗する上でG7=主要7か国との連携は非常に効果的だと考えています。

アジアで唯一のメンバーである日本からの強い連帯の意思の表明は、ウクライナにとって大きな意味を持っています。

G7のことしの議長国をつとめる日本には、欧米やアジアの国々の意向をとりまとめ、財政面や人道面の支援で主導的な役割を果たすことを期待しています。

ウクライナ側が特に重要視しているのが、「復興支援」です。NHKが先月、ウクライナの調査機関と共同で行った市民1000人に対する意識調査でもその傾向が浮き彫りになりました。

この中で日本がウクライナを支援するため国際社会で何ができるか尋ねたところ、「復興支援」が33%ともっとも多くなりました。

日本政府はすでにJICA=国際協力機構を通じてウクライナの復旧・復興に向けた224億円余りの無償資金協力を決めていて、破壊された電力施設の修復や地雷や不発弾の処理対策などの支援を進めています。

一方、意識調査で、日本がウクライナに対して行っている人道支援について知っているか尋ねたところ、「はじめて聞いた」という答えが61%ともっとも多く、日本が進めている人道支援があまり知られていない実情も明らかになっています。

日本がロシアに対する制裁措置に加わっていることもウクライナ側は評価していて、今後も経済的な圧力の強化や、ロシア軍の戦争犯罪の責任追及などを巡り日本の継続的な協力を期待しているものとみられます。

これまでの日本の支援

政府はこれまでに、ウクライナや周辺国などにおよそ15億ドルの支援を順次実施しています。

人道支援では、ウクライナや、避難民を受け入れている周辺国に、食料や生活必需品、医薬品などを提供しました。

また、ウクライナ国内の発電所などが破壊され、各地で停電が起きたことから、発電機などの供与も進めています。

さらに「防衛装備移転三原則」の運用指針を改正し、防弾チョッキやヘルメット、それに化学兵器に対応した防護マスクや防護服など、自衛隊の装備品も提供しました。

一方、ウクライナからの避難民の受け入れも進めてきました。出入国在留管理庁によりますと、これまでに2300人あまりが入国し、就労や教育などの支援を受けながら日本国内で暮らしています。

そして、岸田総理大臣は、ロシアの侵攻開始から1年となった先月、ウクライナに55億ドルの追加支援を行うことを表明しました。