日本銀行の植田和男新総裁が就任会見で、イールドカーブコントロール(長短金利操作、YCC)政策の継続姿勢を示し、市場の政策修正期待は肩透かしを食らった。ただ、政策修正を勘繰られないための配慮という見方もあり、投資家は依然として疑心暗鬼だ。
大規模な金融緩和策の副作用についてはメリットとデメリットを比較考慮して決めるべきとされ、政策の点検・検証が行われるかどうかが今後の焦点になりそうだ。
YCCとマイナス金利は継続適当、現状維持の姿勢示す-植田総裁
植田総裁の会見を受けて金融市場では円売り・債券買いが進んだ。外国為替市場のドル・円相場は1ドル=132円台前半から一時133円台後半まで円安・ドル高が進行。債券市場では長期国債先物6月物が夜間取引で、日中取引終値比13銭高の147円70銭まで上昇した。株式市場では銀行株の上昇期待が後退するという声が聞かれる。
市場関係者の見方
◎SMBC日興証券の奥村任シニア金利ストラテジスト
- 植田総裁の会見はYCCの副作用を強調することもなく、当面政策据え置きをイメージさせる内容
- 就任してすぐの27、28日の金融政策決定会合でYCCを修正する可能性はかなり低くなっている
- 日本国債は海外投資家のショート(売り建て)が昨年度に相当たまっているが、先行きで買い戻しとなる可能性が高まっている
◎SMBC日興証券の佐藤雅彦シニアアナリスト
- 植田総裁は、現状は基調として2%の物価上昇には達していないとした上で、YCCは金融緩和の手段として継続が適切であるとし、早期撤廃に否定的な見方を示した
- 仮に基調物価が2%上昇したとしても急速な金融政策変更は望ましくないとし、YCCやマイナス金利の変更・撤廃期待は遠のいた
- 政策変更期待が銀行株の追い風になるという状況は、当面かなり想定しにくくなったと言わざるを得ない
◎三菱UFJ銀行グローバルマーケットリサーチの井野鉄兵チーフアナリスト
- YCC政策の変更についてもう少し踏み込むという期待が肩透かしに終わり、ドル買い・円売りの動きになった
- 副作用よりも基調の判断に重きを置いていることからも、すぐに何かを行うというわけでもなさそう
- 一方、急に気づいて政策を変更するのは良くないとの見方も示しており、その意味ではある程度道筋が見えてきた時のコミュニケーションに注目
- 総括についてもあっても良いというスタンスのため、早ければ4月会合の時点で総括的な検証の指示があってもおかしくないと思う
◎野村アセットマネジメントの石黒英之シニア・ストラテジスト
- 植田総裁の就任会見は無難な発言に終始したが、依然として4月末の決定会合でYCC修正の可能性が残っており、まだ警戒が必要だ
- YCC修正は事前に匂わせてしまうと金利上昇を見込んだ攻撃を受けるため、市場参加者に勘ぐられないように配慮した可能性もある
- 裏を返せば、4月末の会合でYCC修正を目論んでいるのかもしれないとの解釈も可能だ
◎野村証券の後藤祐二朗チーフ為替ストラテジスト
- 植田会見は慎重かつバランスの取れた発言に終始した印象
- もっとも、政策修正の可能性が大きく低下したとの見方は早計で、きのうの円安の反応はやや行き過ぎの感
- 植田氏は、急な正常化で非常に大きな調整をしなければならないといった状況を回避するために「前もって的確な判断」が必要とも発言。米連邦準備制度理事会(FRB)や欧州中央銀行(ECB)がビハインド・ザ・カーブに陥り、急速な利上げを迫られた昨年来の動きを意識している可能性も
- 副作用に対する判断次第では、正常化とは別のロジックで追加修正が行われる可能性も残る
▽植田総裁、大規模緩和の継続表明 共同声明「見直す必要なし」―日銀新体制スタート<時事ドットコム>2023年04月10日22時44分
日銀の植田和男総裁は10日夜、東京・日本橋の日銀本店で就任記者会見を行い、黒田東彦前総裁が進めてきた大規模な金融緩和政策を継続する方針を表明した。会見に先立つ岸田文雄首相との会談では、政府と日銀が政策連携を強化することを打ち出した2013年1月の共同声明について「直ちに見直す必要はない」との考えで一致した。首相官邸で会談後、記者団に明らかにした。
共同声明には物価上昇目標を2%とすることが盛り込まれ、大規模緩和の根拠となっている。植田氏は就任会見で2%目標について「そう簡単な目標ではない」と説明。達成時期に関して「できるだけ早く」と述べるにとどめ、期限についても「現時点で申し上げられない」と明示を避けた。短期金利をマイナス0.1%、長期金利を0%程度に誘導する長短金利操作については「継続が適当」と述べた。