[上海/香港 31日 ロイター] – 資金繰りに窮した中国の地方政府が上海債券市場に存在する「抜け穴」に突如、押し寄せている。規制改革特区の上海自由貿易試験区(FTZ)で外債として発行される「真珠債」だ。規制が曖昧なため、地方政府にとって国内の借り入れ規制を回避する手段となっている。 

地方政府が所有するインフラ投資会社である融資平台(LGFV)は一部のアナリストから金融システムの「ブラックホール」とも称される。債券の発行残高は9兆ドル余りに上り、さらに増加中。しかし中国政府はLGFVが支出を続け、不安定な景気回復を後押しすることを期待している。

政府統計によると、真珠債は年初来の発行高が720億元(100億ドル)で、既に昨年全体のほぼ2倍に急増した。アナリストによると上海市場はオフショアの指定を受けているため、2021年以降、規制強化によりオンショアでの借り入れが凍結されたLGFVにとって代替的な調達手段になっている。

ロイターの集計によると、LGFVは今年、中国全体の真珠債発行体の約3分の2、発行高の60%を占めている。今年に入って新たに真珠債を起債した82の発行体のうち55がLGFVだった。

米連邦準備理事会(FRB)の積極的な利上げに伴い世界的にドル建て調達コストが高騰しているのに対し、真珠債は比較的有利な価格設定がなされている。これは国内の発行体と、真珠債の主な買い手である中国の銀行の両方に利益をもたらしてきた。その結果、急増するLGFVの債務にエクスポージャーが集中し、広範なシステミックリスクを生み出している。

CSCI鵬元評級のシニアアナリスト、シー・シャオシャン氏は、「地方・郡レベルのLGFVに対する国内の資金調達規制はまだ厳しく、資金調達ルートは限られている」と指摘。「信用度が比較的低いLGFVにとって海外での調達は依然として重要な資金調達手段だ」と述べた。

真珠債自体は2016年から存在しているが、LGFVの債務に対する政府の監視が厳しくなったため最近になって人気が高まった。格付け会社フィッチによると年内に満期を迎えるオンショアのLGFV債は約5兆5000億元相当と、2021以降で最高となる見通し。自由貿易試験区ではどんな通貨でも起債が可能だが、今年の新規起債は全て人民元建てだ。

<曖昧な位置づけ>

真珠債は取引が海外の清算機関ではなく中国中央国債登記結算(CCDC)で清算される点が他のオフショア債と異なる。投資家は取引にあたってCCDCへの登録が必要となる。実際のところ、稼働している取引口座30のほぼ全てが中国の銀行だ。

LGFVの財政状態や中国の景気回復の遅れに対する懸念はあるものの、真珠債は3年物の表面利率が4―5%前後と、政府機関による海外での調達コストを大幅に下回る。一方銀行にとって真珠債の表面利率は国有企業向け融資から期待できる3―4%のリターンよりもかなり高い。

<当局も後押し>

真珠債の人気上昇は、人民元建て資金調達の拡大を奨励する動きと軌を一にしている。つまり、真珠債の発行拡大は当局から少なくとも暗黙の後ろ盾を得ているようだ。

上海浦東発展銀行や交通銀行など金融機関や金融規制当局は5月にイベントを開催し、真珠債を売り込んだ。

浦東新区の金融監督局の幹部は上海で開かれたイベントで、真珠債はオフショア人民元取引の規模を広げ、人民元の国際化を促進すると述べた。

しかし一部の銀行関係者によると、真珠債に突然資金が流入したことで、投資や通貨フロー上の同債の分類を巡る疑問も持ち上がっている。

中誠信国際信用評級はメモで 「自由貿易区の位置付けが曖昧なため、実務上、自由貿易区の外債を登録・管理する必要があるかどうかについて外為規制当局の姿勢がはっきりせず、一貫性を欠いている」と危惧を示した。

中国で外債枠の付与を担当する中国国家発展改革委員会はロイターの問い合わせに応じていない。国家外為管理局のコメントは得られていない。

(Georgina Lee記者)