別府鉄湯温泉にある「おにやまホテル」のサイトに、次のコンテンツが掲載されている。「タクシーが全くつかまらない別府の夜 解決策に市が無料の『ナイトバス』運行を提案」(6月24日付)。過日、このバスが運行を開始するとのニュースをテレビでみた。コロナ禍で客足が遠のいた上に高齢化の進行で運転手の離職が相次ぎ、タクシー会社の運行に大きな支障が出ている。タクシー不足の改善が進まないまま、コロナ規制が解除され客足は急回復した。だが、今度はタクシー不足で内外から殺到するお客さんに迷惑をかけている。一難去ってまた一難。困惑した別府市はとりあえずの措置として無料の「ナイトバス」の運行を始めた。日本中のどこにでもある少子高齢化にともなう労働力不足問題だ。温泉のメッカともいうべき別府市に解決策はあるか、遠く関東の片隅から気を揉んでいる。そんな折、時事通信のニュースが目に止まった。

「ライドシェア解禁論、再び脚光 自民に賛否、国交省なお慎重」(時事ドットコム、8/25(金)17:54配信)という記事だ。書き出しは以下の通りだ。「一般ドライバーが自家用車を使って有償で他人を送迎するライドシェア(相乗り)の解禁論が再び脚光を浴びている」。きっかけは菅義偉前首相の講演。8月19日に同氏は長野県で講演、「現実問題として(タクシーが)足りない。(解禁は)必要だ、と一石を投じた」という。 菅氏に近い自民中堅議員は「地方など地域限定での解禁なら認めてもいい」と同調。一方、競争激化が見込まれるタクシー業界はかねて反対し、自民党タクシー・ハイヤー議員連盟(会長・渡辺博道復興相)も足並みをそろえる。議連所属の議員は「解禁は絶対無理だ。安全・安心な業界を守っていくことが大事だ」と訴えている。記事を書いた記者は「安全面など課題は多く、業界団体の支援を受ける党内に反対論は根強い。国土交通省も一貫して慎重で議論が進むかは見通せない」と、悲観的な見通しを書き込んでいる。

要するにこれは安倍元首相が折に触れて強調していた“聖域なき規制緩和”問題だ。与野党ともタクシー業界の規制緩和に反対する議員が圧倒的に多い。菅氏はそんな現状に鋭く切り込んだわけだ。ライドシェアは発祥地である米国のUberを見るまでもなく中国、シンガポール、フィリッピン、ベトナム、タイなど東南アジアで急激に広まっている。この分野で日本は周回遅れの後進国だ。反対論者はタクシー業界の競争激化を招き、利用者の安全が確保できなくなるという。これは既得権益の擁護にすぎない。ライドシェアを解禁しても安全確保の道はいくらでもある。当たり前のことだ。どうやって確保するか、そこが議論の中心的課題だ。それを議論するのが国会であり、政治の役割。だが、現状はそこから大きくかけ離れている。解禁しないこと、これが安全確保の唯一の手段だという。かくして労働不足の解消策は闇から闇へと葬られる。メディアはそこにこそ目を向けるべきだ。