岸田政権の支持率下落が止まらない。しかし、その原因を「減税政策を主張したから」とする一部の論調には疑問がある。
連日公表されるメディアの世論調査は、「減税政策を評価しない〇〇%」というストレートニュースを垂れ流しているが、果たして岸田政権の支持率下落は減税政策自体が嫌われているからなのだろうか。
国際政治アナリストの渡瀬裕哉氏は「独自の世論調査の結果、岸田政権の支持率下落要因は、減税政策そのものではないことが分かった」というーー。
岸田内閣を「支持する」「やや支持する」の合計は16.8%
筆者は「減税政策=支持率下落という誤った世論形成が日頃から増税を求める大手メディアによって中心になされること」を危惧したため、民間シンクタンクの調査研究として、大手インターネット世論調査会社に委託し、岸田政権の支持率下落と減税政策の関係について分析した。 調査結果
具体的には、⼀般社団法⼈救国シンクタンクでは、2023年11⽉14~16⽇、⼤⼿インターネット世論調査会社に委託し、有効回答数1044⼈(18~79歳の男⼥/全国/⼈⼝構成⽐割付)で、減税に関する世論調査を実施した。このアンケート設計自体には恣意性はなく、同調査会社のモニター調査システムをそのまま利用した。その結果として岸田政権の支持率下落要因は、減税政策そのものではないことが分かった。
具体的な設問と回答は下記の通りであった。
① 「あなたは岸⽥内閣を⽀持しますか?」 「⽀持する」「やや⽀持する」の合計が16.8%、「あまり⽀持しない」「⽀持しない」の合計が74.7%。⽀持を不⽀持が⼤幅に上回る回答結果となった。
② 「岸⽥内閣が任期途中で退陣した場合、その原因は減税政策を主張したからだと思いますか?」 「そう思う」が11.0%、「そう思わない」が51.5%、「分からない」が37.5%。岸⽥政権の⽀持率下落の主因として、減税政策そのものが理由とは考えられていないことが分かった。
つまり、仮に岸田内閣が支持率下落を受けて、何らかの理由によって退陣したとしても、有権者の多くはそれが「減税政策を主張したからだ」とは思っていない。岸田政権の支持率下落要因を「減税政策そのものにある」と関連付けて報じる大手メディアの報道姿勢は極めて問題だ。
岸田政権が減税を実施したところで、後から増税されるなら意味がない
大手メディアはそもそも増税論調のメディアが少なくない。特に新聞などは自分たちが軽減税率という政府からのお目こぼしを受けているせいか、増税を実質的に礼賛する主張を書き連ねている。軽減税率は増税を求める政府が業界をコントロールするためのツールに過ぎない。したがって、その恩恵を受ける大手メディアはあえて岸田首相以外の他の政治家に見せつけるかような論調を展開し、二度と減税という単語が政治家の口から出てこないようにしようとしているように見える。
では、岸田政権が実施しようとしている減税政策は、何故支持されていないのだろうか。
③ 「あなたは岸⽥政権が提⽰した『所得税減税』政策を⽀持しますか?」
「⽀持する」「やや⽀持する」の合計が28.4%、「あまり⽀持しない」「⽀持しない」の合計が55.3%。⽀持を不⽀持が⼤幅に上回った。
④ 「『所得税減税』政策について「あまり⽀持しない」「⽀持しない」と回答した⽅に質問します」その理由について教えてください。
1位「短期間の減税後にそれ以上に増税されることがわかっているから」53.6%、2位「岸⽥⾸相の減税政策が単なる選挙対策に思えるから」45.9%、3位「恒久減税または複数年に渡る減税を⾏うべきだから」29.8%という結果であった。
⑤「あなたが減税すべきと考える国税をお教えください。 1位「消費税」63.5%、2位「所得税」50.2%、3位「ガソリン税」48.5%、4位「相続税」24.6%、5位「贈与税」18.8%
結局、岸田政権の減税政策は「実際には減税政策として受け止められていない」ということだ。つまり、減税政策自体が否定されているのではなく、有権者の多くは「岸田政権の減税政策=偽減税だ」と考えているということだ。
実際、岸田政権の偽減税政策はまがい物だ。僅か1年の所得税減税政策では国民は後に続く増税を前提として貯蓄に回す可能性が高い。減税政策は複数年以上継続する前提で初めて有効に機能する。
大手メディアの世論調査方式は不適切だ
岸田政権が求めているものは、目の前に迫る総選挙のためであって、減税政策の効用を最大化することを目指していない。国民は岸田政権の浅はかな意図はお見通しなのだ。
直近では岸田政権はガソリン税のトリガー条項を検討するとしている。しかし、今から検討するのでは、実際にはその減税は来年の後半以降ということになるだろう。現在、エネルギー価格は既に下落傾向を示し始めており、来年には価格高騰が沈静化する可能性も十分にある。トリガー条項が必要な時にあえて発動せず、それが不要になる時期を見越して検討を開始するなど、国民を愚弄するのも甚だしい。そもそもトリガー条項という名称を返上すべき偽減税議論に辟易する。
さらに、年代別データを見ると、岸田政権の所得税減税政策の⽀持者は18歳~40代合計33.8%、50代以上の合計23.8%と所得税減税に関する世代間ギャップが背景にあることも分かった。
所得税を現役で支払っている層の所得税減税を否定する人の割合は相対的に低い。当たり前のことだが、これは重要なポイントだと言える。
大手メディアの世論調査は今回のように日本の人口統計の年代・性別に割り付けた調査ではない。彼らの調査はRDD方式という電話に直接架電し回答を求める方式を取っているため、その回答者は60代以上の高齢者に偏っている。突然、自宅や携帯に見たことない番号から電話がかかってきて、自らの政治的志向について警戒心もなく回答する層をターゲットにした調査なのだから当然だ。本件のように所属する年代で回答内容が大きく異なる調査内容の場合、RDD方式が不適切であることは言うまでもない。
それらの偏ったサンプルによる調査を公表することは「減税政策は支持されない」という世論誘導づくりのためのアンケートのようにも見える。ある種の政治家に対する脅しとも言えるだろう。また、多くの国民も大手メディアの調査結果に違和感を覚えながらも、それ以外の調査がほとんどない中で変だと思いながら調査結果を受け入れさせられている。
アンケート調査は国民の人口構成に合わせた調査が可能であるインターネット調査を基本とするべきであり、なおかつ調査主体である新聞等は自らが軽減税率の対象となっていることを調査分析結果に明記すべきだ。
岸田政権の減税政策は偽減税として国民が理解している
「岸田政権の減税政策は偽減税として国民が理解している」ので支持されていないだけであり、国民は減税政策そのものを否定しているわけではない。正しい世論調査結果の普及が必要である。
ちなみにここで、米国で2023年10月に行われた「The Economist/YouGovpoll」の調査を紹介したい。
米国の世論調査は、調査結果の公表に際して、調査手法や回収サンプル属性だけでなく、クロス集計なども提供している。世論調査の数字を見た人がより深く内容をチェックし、報道内容の反証可能性を残すことは当然のことだからだ。これが本物のプロ意識というものだろう。
逆にそうでなければ、メディアが世論誘導しようとしている、と激しい批判にさらされることにもなるだろう。日本の大手メディアが「国民は減税を望んでいない」と事実上誘導しているように……。
ただし、高齢者に偏った回収サンプルの世論調査でも分かることもある。そのような調査にも関わらず、その結果で内閣支持率が26.9%しかなかったという岸田首相にとって重すぎる事実だ。仮に回収サンプルの年代属性が日本国民の統計データと同一のものだったとしたら、その結果はいかなるものになっていたのだろうか。
渡瀬 裕哉