新型コロナウイルスワクチン接種後の健康被害救済制度で、適用審査が滞っている。接種が原因と認定されれば医療費などが支給されるが、申請があまりに多く、国が受理した累計1万件近くのうち3割強は審査が始まってもいない。救済を求める人が1年半以上待たされるケースも出ている。(宇都宮支局 舘野夏季)
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父親の遺影を見つめる女性。「亡くなった原因を早く知りたい」と訴える(栃木県那須塩原市で)
栃木県那須塩原市の女性(53)は2年前の秋、父親(享年76)を亡くした。新型コロナのワクチン接種後、免疫異常で手足に力が入らなくなる「ギラン・バレー症候群」を発症。自力で立つこともできなくなり、やせ細っていったという。
担当医に接種が影響した可能性を指摘され、半年後に救済制度の適用を申請した。だが、結果はいまだに届かない。「父の死から2年が過ぎても、気持ちの整理がつかない」
救済制度は1976年の予防接種法改正に伴って始まった。対象はインフルエンザや日本脳炎など同法に基づく予防接種後の健康被害。新型コロナもこの制度を活用しているが、接種が延べ4億3000万回超と桁違いに多い分、申請も膨大だ。既存の枠組みでは対応しきれない「想定外」が、ここでも起きている。
制度では、接種後に急性アレルギー反応のアナフィラキシーなどの症状が出た人らに対し、医療費や死亡一時金(遺族に一律約4500万円)などを給付する。厚生労働省の審査会(医師や弁護士ら約20人)で、接種との因果関係が認定されるのが条件となる。
厚労省によると、審査会は従来、年5回ほどの開催で数十~百数十件を審査していたが、2021年8月に初めてコロナ関連が持ち込まれ、状況は一変。21年が開催10回で493件、22年が20回1174件となり、今年は40回5360件(今月8日現在)と激増した。
コロナ関連の申請受理件数はこれまでの累計で9613件(うち死亡例は1040件)。制度適用が認められたのは5499件、否認881件、保留77件で、3割強の3156件は審査に入れていない。
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厚労省は審査会に加え、新たに設置したコロナ専門の3部会(医師ら約10人ずつ)も毎月開き、懸命に作業を進めている。
申請前の準備にも時間
救済申請をするには接種記録や診療記録が必要なため、申請窓口となる自治体や、通院するなどしていた医療機関とのやりとりが生じる。ただ、自治体や医療機関も、新型コロナ対応で業務負担が増したことに加え、救済制度に関わった経験が浅いところが多く、申請前の準備段階でも時間がかかっているようだ。
「新型コロナワクチン後遺症患者の会」の会員アンケート(回答246人)では、「病院・医師が制度を知らず苦労した」(33・3%)、「市区町村の担当者から適切な説明が受けられなかった」(32・5%)などの回答が目立った。
自治医科大病院の畠山修司教授(感染症学)は「頭痛や 倦怠 感などはワクチン以外の原因で起きることもあり、審査に時間がかかるのはやむを得ない面もある。健康被害より接種のメリットの方が多く報告されており、接種に否定的にはならないでほしい」としている。