「日本学術会議」の会員の任命をめぐって、政府は、野党の会合で、おととし、政府内でまとめていた文書を明らかにしました。それによりますと、会員の任命について、憲法で定められた国民主権の原理からすれば、総理大臣に、会議の推薦どおりに任命すべき義務があるとまでは言えないなどとしています。
「日本学術会議」が推薦した新たな会員候補の一部の任命を菅総理大臣が見送ったことをめぐり、6日開かれた野党の会合には、内閣府の担当者が出席し、おととし、政府内でまとめられた総理大臣による会員の任命権に関する見解についての文書を公表しました。
この中では「日本学術会議」について、国の行政機関であることから、総理大臣は、会員の任命権者として、人事を通じて、会議に一定の監督権を行使することができると明記しています。
そのうえで、会員の任命について公務員の選定などは、国民固有の権利であることを定めた憲法15条にある国民主権の原理からすれば、総理大臣に会議の推薦通りに会員を任命すべき義務があるとまでは言えないとしています。
また、内閣総理大臣が適切に任命権を行使するためには、定員を上回る候補者の推薦を求めて、その中から任命することも否定されないとしています。
一方で、科学者が自主的に会員を選出するという基本的な考え方に変更はないなどとして、総理大臣は会員の任命にあたって、会議からの推薦を十分に尊重する必要があるとしています。
これについて、出席者から法解釈の変更ではないかという指摘が出されたのに対し、内閣法制局の担当者は「法解釈の変更ではない。憲法15条の規定で、公務員の任命権などは国民にあり、最終的に内閣総理大臣が、その責任を負っている。かつての国会答弁も、その前提のもとにされている」と述べました。
学術会議前副会長「違和感覚える」
日本学術会議の会員の任命をめぐって、政府が「総理大臣に、会議の推薦通りに任命すべき義務があるとまでは言えない」とする文書をおととし、まとめていたことについて、ことし9月まで日本学術会議の副会長を3年間務め、会員の選考にも携わった科学技術振興機構の渡辺美代子副理事は「在任していた期間、そうした文書は見たことがなく文書が存在していることも全く知らなかった。日本学術会議の会員や幹部はそうした文書を見たことはないのではないか」と話しています。
渡辺副理事は「公平、公正で中立な立場から将来の科学、学術分野の発展を支えてくれるふさわしい人物を長い時間をかけて選んでいる。私たちが選んだ人を総理大臣が文句なく選べとまでは言わないが、実質的な任命権は私たちにあるという認識だった。総理大臣が学術会議の推薦通りに任命すべき義務があるとまでは言えないなどという表現には違和感を覚える。国内の科学、学術の発展のため考え抜いて選んだ方々を、政府側の思惑一つで何の理由も示さずに任命しなくてもよいのだという認識であれば非常に問題で、とても受け入れられない」と述べました。