サッカーW杯2026はスペインの優勝で幕を閉じた。48カ国が参加するという異例の大会だったが、終わってみれば強いチームが優勝カップを手にするという極めて当たり前の結果だった。スペインは本当に強かった。守備と攻撃のバランスがよく、交代選手を含め誰が出ても、どこからでも点が取れる。森保監督率いる日本代表との共通点もあった。「守備から攻撃へスムーズに展開する」、森保監督が常に強調しているチーム力だ。スペインのチーム力は際立っていた。
「目標は優勝」を掲げた日本代表の強化方針は間違っていないと思う。ここ数年でチーム力は格段に上がった。三笘、南野、遠藤という主力を欠いた陣容で予選リーグを突破した実力は、世界の強豪国も無視できなくなった。決勝トーナメント1回戦で敗退となったものの、日本代表の力は着実に上がっている。しかし、優勝を目指すためにはこれまでの強化方針だけでいいのか、個人的にはそれだけでは不十分だとみる。
世界のレベルも日進月歩で向上している。日本も上がっているが、同時に世界も上がっているのだ。それを実証するかのように、ペナルティーエリアの外から放つ強烈なミドルシュートが多かった印象がある。得点王に輝いたエムバペ、アルゼンチンの英雄メッシなど世界を代表するストライカーは、ペナルティーエリアの外からゴールポストの左右上段にあるトップコーナーに、いとも簡単(そう見えた)にシュートを決めていた。
一体どれくらいのミドルシュートが決まったのか、生成AIに聞いてみた。大会の総得点は314点。このうちミドルシュートはFKを除くと43本で、確率は13.7%である。ただし、FIFAにはミドルシュートという公式な統計はない。AI自身もデータに正確性はないと認めており、確実なデータを得るためには1試合ごとにビデオを見て集計するしかないと注意喚起している。
研究論文を書くわけではないから、この程度のデータでよしとする。ちなみに日本代表の総得点は決勝トーナメント1回戦までで合計8点だった。このうちミドルシュートは個人集計で3本ある。オランダ戦の中村敬斗、チュニジア戦の上田綺世、ブラジル戦の佐野海舟の3点だ。率は37.5%で、なんと全体の確率を大幅に上回っている。
サッカーはこの先ミドルシュートの威力が勝敗を左右するような気がする。その点で日本の攻撃力は世界に並んでいるように見える。だが、優勝争いまで勝ち上がったとして、得点王争いができるほどの実力はあるのだろうか。上に挙げた3人もまだ世界トップレベルとは言えず、今後の強化方針が問われるのだ。
スペインには個人で得点王争いをするようなスター選手はいなかった。個人ではなくチーム力で優勝杯を手にしたのだ。では、日本はスペインを目指すのか。確かに守備力は世界に誇れる力が付いてきた。ゴールキーパーには鈴木彩艶がいる。問題は攻撃だ。
今大会で話題になったのはスペインの若き左ウイング、ヤマル選手を抱っこするメッシの写真だ。ヤマルはW杯初参加の19歳。写真は20年前のもので、生まれたばかりのヤマルをメッシが抱っこしている。
偶然が引き起こした一枚の写真にすぎないのだが、メッシは当時すでに一流プレーヤーとして名をはせていた。この2人の年齢差は20歳。この写真が象徴するのは、プレイヤーとしてのヤマルを家族も、クラブも、協会も、もっと言えばスペインが国を挙げて幼い時から育ててきたという事実だ。
ブラジル戦の敗戦を受けて、ディフェンスの柱である冨安が次のような敗戦の弁を語っている。「全員が1ミリ、1歩、1秒を詰めていくしかない」と。冨安の実力は言うまでもない。ただ気になるのは、そのあとに「自分自身をさらに追い込むためにより厳しい環境に身を置かなければならない」と強調したことだ。
何やら修験者のような匂いがする。まるで求道者だ。個人が日々努力することはその通りだと思う。サッカーに限らずあらゆるスポーツが個人の努力の上に成り立っている。しかし言いたいのは、個人の努力だけでは足りないということだ。W杯を制するためには、国を挙げた育成計画が必要なのだ。
18歳でワールドカップに初出場し、決勝戦でメッシと相まみえたヤマル。その裏には20年近いヤマル育成の歳月が隠されている。例えば、5歳でサッカーを始めた幼児の才能を誰がどうやって見出すのだろうか。仮にその子の天才的な能力を見出したとして、その子をどのように育成していくのか。
育成に必要なのはサッカーの細かいテクニックだけではない。体の成長に合わせた体力づくり、メンタルが引き起こすさまざまな問題、栄養学や一般教養も必要になるだろう。もちろん語学も必須だ。少年たちが通うサッカークラブも、学校も、教会も、あるいは医学界も、メンタルヘルスの関係者も、ひいては県も国も一緒になって協力する必要がある。これ自体が壮大な国家プロジェクトなのだ。
森保監督の育成方針でもある「優勝を意識することによって個々人が強くなる」との発想も理解できる。でも、それだけで本当に優勝にたどり着けるのだろうか。得点争いのできるストライカーを育成するだけでも何十年とかかるだろう。W杯優勝はサッカー界だけの努力でできるものではない。国家を挙げた一大プロジェクトなのだ。
結果論だが、ブラジルは決勝トーナメントの2回戦で敗退した。ベスト8にも進んでいない。もっとはっきり言えば“弱い相手だった”。そのブラジルに「善戦した」という雰囲気が国内には充満している。これは多分勘違いだろう。ブラジルは昔ほど強くはない。日本は勝てる相手、つまり「弱い相手に負けたのだ」。次に向けてまずこの現実からスタートすべきだ。