◇原稿の「差し替え」で済む問題ではない、問われるのは報道姿勢◇
26日に発生した時事通信の原稿差し替え問題。これは単なる記事の修正として片付けていい問題ではない。報道姿勢に関わる悪質で、あってはならない行為だ。積極財政潰しの“印象操作”。そうとられても仕方ない。時事通信に限らない。共同通信、日経新聞、朝日新聞、毎日新聞など日本を代表する報道メディアに共通する「バイアス報道」だ。
問題の経緯を簡単に振り返る。城内実経済財政担当相の講演をめぐる記事だ。時事通信は26日15時44分、「◎城内経財相:『財政健全化』が目標の国ない=骨太方針の文言削除で」との見出しで最初の記事(初稿)を配信した。
ところが、約2時間20分後の18時02分、城内氏がXで「この記事の見出し及び記述は、私の発言の趣旨とは異なり、極めてミスリーディングです」と反論。その約1時間半後の19時33分、時事通信は初稿記事を差し替えた。
この経緯は、大和証券チーフエコノミストの末廣徹氏が「TBS CROSS DIG with Bloomberg」に詳しく整理している。同氏によると時事通信の初稿と差し替え記事を比較した結果、初稿では「財政健全化」という言葉をめぐる城内氏の発言が、財政規律そのものを否定するようにも受け取れる構成になっていた。一方、差し替え記事では城内氏のXでの説明が加えられ、日銀に関する記述なども削除された。
では、実際に何が起きたのか。
まず初稿である。
時事通信は「骨太方針2026」から「財政健全化」の文言が削除された理由について、城内氏が「そんな言葉を目標にしている国はない」と発言したと報じた。
さらに、「PB単年度黒字化目標一本足打法はどこの国でやっているのか。日本だけだ」との発言や、日銀法に関連して「金融政策の手段の自主性は日銀法3条にある」と説明したことなども掲載した。
末廣氏は、こうした初稿の記事全体からは、城内氏が「財政健全化」という概念そのものに否定的で、PB黒字化目標を中核目標から外すことを正当化し、さらに日銀の利上げ路線にも批判的であるかのような印象を受ける構成だったと指摘している。
ここが問題の核心だ。
城内氏自身は、18時02分のX投稿で明確に反論した。
「私が申し上げたのは、『財政健全化を目標とする国は存在しない』ということではありません」
そして、「財政健全化」という言葉は定義が必ずしも明確ではなく、歳出抑制を重視する考え方から、経済成長によって税収を増やし財政の持続可能性を確保する考え方まで、異なる政策を同じ言葉で表現できるため、政府の目標として掲げる言葉として適切ではないのではないか、という問題提起をしたのだと説明した。
そのうえで、「もちろん、財政の持続可能性を確保することは極めて重要です」と明言している。さらに、骨太方針2026では債務残高対GDP比の安定的な引き下げを中核的な目標とし、PB、財政収支、利払い費、公債依存度、国債発行額、税収など複数の財政指標を総合的に検証する方針だと説明した。
この説明は、政府の公式資料とも整合する。
内閣府が7月21日に閣議決定した「骨太方針2026」は、「責任ある積極財政」の下で「強い経済」の構築と「財政の持続可能性」を一体的に実現すると明記している。また、国・地方の総債務残高対GDP比を安定的に引き下げることを財政運営の中核に位置づけ、PBについても債務残高対GDP比の安定的な低下に向けて確認する指標として複数年度で管理する考え方を示している。
つまり、城内氏の主張は「財政健全化をやめる」ということではない。
むしろ、「財政健全化」という曖昧な言葉を政策目標に据えるのではなく、債務残高対GDP比など具体的な指標で財政の持続可能性を検証する、という考え方なのである。
◇「支持率を下げてやる」とは別問題だが、疑念を招いた報道◇
ここで思い出されるのが、昨年10月7日に発生した時事通信社カメラマンの「支持率下げてやる」発言問題である。
時事通信社自身が10月9日に公表した説明によれば、2025年10月7日、自民党本部で高市早苗総裁の取材対応を待っていた同社映像センター写真部所属の男性カメラマンが、他社のカメラマンらとの雑談中に「支持率下げてやる」「支持率が下がるような写真しか出さねえぞ」と発言。その音声がネット中継で収録され、SNS上で拡散した。同社は男性カメラマンを厳重注意した。
この件と今回の原稿問題を同一視することはできない。前者は一社員の私的な雑談、後者は記事の内容そのものの問題だからだ。
しかし、時事通信が昨年こうした問題を起こしたことを考えると、今回の原稿が高市政権の財政政策をどう伝えたのかについて、読者が厳しい目を向けるのは当然だろう。
ただし、現時点で「時事通信が高市政権を潰すために意図的に印象操作を行った」と断定するだけの証拠は確認できない。
確認できる事実は、初稿が城内氏の意図とは異なる受け止め方を生み、城内氏が公然と「極めてミスリーディング」と反論し、その後、時事通信が記事を差し替えたということである。俗な言葉を使えば「時事通信の完全敗北」でもある。
報道機関にとってこの経緯は軽い問題ではない。
記事の見出しは、読者が最初に受け取る情報である。とりわけ経済・金融政策の記事では、一つの言葉の使い方が市場や世論の受け止め方を大きく左右する。
今回の初稿は、「財政健全化を否定した」という印象を与えかねないものだった。城内氏の反論と差し替え後の記事を見る限り、少なくともこの印象は大幅に修正された。
では、なぜこのようなことが起きたのか。
ここからは、単なる時事通信の記事の問題を超えて、日本の経済報道そのものを考える必要がある。