7月下旬の日米協調介入以降、ベッセント米財務長官による対日「口先介入」が強まっている。ベッセント氏はなぜ協調介入に踏み切ったのか。同長官の真意を測りかねていた。5月の来日時には片山財務相に「怒り」をぶつけたともいわれる。米金利は本当に上昇するのか。

そんな中、国内では長期金利(10年物国債の流通利回り)が何十年ぶりかの3%台に乗せたとして、連日、オールドメディアの「大騒ぎ」が続いている。

ベッセント氏に対する「なぜ?」という疑問を抱えながら今朝のニュースを見ていて、目から鱗が落ちた。ロイターが昨日夕方に配信した「アングル:世界の債券市場揺らす日本マネー、長期金利3%で還流の兆し」が、それだ。

内容をかいつまんで言えば、日本の長期金利が3%台に乗せたことで、海外市場に流出していた日本マネーが国内へ回帰し始めたというのだ。

オールドメディアは連日、住宅ローン金利が上昇する、国債の利払い費が増える、国民の生活が苦しくなる、といったマイナス面を強調する報道に明け暮れている。

しかし、その一方で、生保や投資信託、個人など、収益を重視する投資家が、これまで海外に流出していた資金を静かに国内へ還流させ始めているという。

記事を見てみよう。

「日本の投資家と直接話して分かったことだが」と、ラザード・アセット・マネジメントのグローバル債券部門共同責任者、マイケル・ワイドナー氏は語る。

「彼らは恐らく25年間、円建て証券への投資を手控えてきた。それが今、円建て証券の魅力が増し、彼らは資産配分を見直している」。

シティグループのオーストラリア・ニュージーランド市場セールス責任者、ライアン・エリス氏は、「今年は(日本の投資家は)買い増しよりも、投資残高を維持する傾向を強めている」と語る。

さらに、「彼らはここ数年で初めて国内市場を重視する姿勢を見せている」とし、「これは完全に収益重視の決定だ」と話す。

なんということはない。世界に冠たる「ジャパンマネー」の流れが変わり始めたのだ。

黒田日銀時代の「異次元緩和」では、10年国債の利回りはゼロ%台に抑えられていた。預金金利もほぼゼロ。虫眼鏡を使わなければ分からないほどの「金利のない世界」だった。

それが、植田日銀総裁、高市首相の登場によって変わり始めた。

もちろん、物事には二面性がある。プラスもあればマイナスもある。ゼロ金利から「金利のある世界」への移行に伴い、至るところである種の混乱が起こっている。

これに「責任ある積極財政」が加わり、国債の増発を嫌気して国債が売られ、利回りが上昇する。そこにインフレも重なり、金利上昇が続いている。

だが、金利の上昇がプラスに働く面もある。

生保や投資信託など、長期資金を運用する機関投資家は、ここに来て資産配分の見直しを迫られているようだ。

例えば、年金資金の運用を担うGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人、Government Pension Investment Fund)だ。GPIFが想定する長期的な運用利回りは現在1.9%。国債の利回りが3%を超えてくれば、国内の安全資産である国債にも十分な投資妙味が生まれる。無理をして米国債など海外資産に投資する必要性も低下する。

企業年金なども同様だ。予定利率(想定利回り)は1~2%程度のケースが多い。ゼロ金利時代には、国内の債券運用だけでは十分な収益を確保することが難しかった。

ところが今では、安全資産である国債の利回りが3%を超えてきた。

ワイドナー氏が指摘するように、「彼らは恐らく25年間、円建て証券への投資を手控えてきた。それが今、円建て証券の魅力が増し、彼らは資産配分を見直している」。

ここが重要だ。

海外に保有するドル資産を売却し、その資金を国内の円建て資産への投資に振り向ければ、「ドル売り、円買い」が発生する。

つまり、日本の長期金利上昇は、単に国内の住宅ローン金利や国債の利払い費を押し上げるだけではない。これまで海外に流出していた巨大な日本マネーを、国内へ呼び戻す力にもなり得るのだ。

ロイターの記事は、こうした動きが世界各地で始まっている可能性を浮き彫りにしている。日本のオールドメディアが長期金利の上昇をひたすら「悪」として報じているのとは対照的だ。

いずれ、確定拠出年金やNISAで海外資産を組み入れている個人投資家にも、資産配分の見直しが広がる可能性がある。海外資産から国内資産への資金還流は、すでに始まっているのかもしれない。

翻って、ベッセント財務長官である。

この人はジョージ・ソロス氏の下で働いた経験を持ち、国際的なマネーの流れを熟知する人物だ。

同氏は、日本の長期金利上昇によって「ジャパンマネー」が米国をはじめとする海外市場から流出する可能性と、その影響をいち早く見抜いているのではないか。

もしそうだとすれば、ベッセント氏の対日発言には別の意味が見えてくる。

日本の金利上昇によって国内資産の魅力が高まれば、日本の投資家が海外資産を売却し、国内へ資金を戻す可能性が高まる。これは米国の国債市場にとっては、決して無視できない問題だ。

一方、ベッセント氏は高市政権の積極財政路線にも異論を挟み始めている。

日本の財政拡張による国債増発が金利上昇を招き、それがさらに日本マネーの国内還流を促す――。もしベッセント氏がこの構図を警戒しているのだとすれば、これまでの言動にも一つの筋が通る。

ここが実に興味深いところだ。これまで「なぜベッセント氏は日本に厳しいのか」と考えてきたが、もしかすると、その背景には「日本マネー」という巨大な資金の流れがあるのかもしれない。

そして、その先に見えてくるのが為替市場である。

日本の金利上昇によって国内資産の魅力が高まり、海外資産から国内資産への資金還流が進めば、「ドル売り、円買い」が起こる。これは中長期的な円高要因になり得る。

日銀は17~18日に予定されている金融政策決定会合で、政策金利を引き上げる可能性がある。高市政権は15日の閣議決定を目標に、消費税率の引き下げに向けた税制改正大綱の準備を進めている。そのころには内閣改造・党役員人事も行われるとみられる。

本格的な政治の季節だが、永田町は相変わらず「一寸先は闇」の状態だ。

そんな中、為替市場ではどうやら、ヒタヒタと円高への本格的な転換期が近づいている。

金利、財政、そしてジャパンマネー。

この3つの流れが重なり始めたとき、これまでとは違う円相場の景色が見えてくるのではないか。