高市内閣の来年度予算、2027年度予算の編成作業が本格的に始まった。8月31日に締め切られた各省庁の概算要求額について、財務省による正式な集計結果はまだ発表されていないが、主要メディアによる独自集計が公表されている。
読売新聞によると、「一般会計の総額は143兆円前後に上る見通しだ。新たな投資枠の創設や当初予算と補正予算の一本化により、過去最大だった26年度の要求総額(122兆4454億円)を20兆円程度上回る見込み」としている。
来年度予算には、いくつかの新基軸が盛り込まれている。①「強く豊かな日本」投資枠の創設、②これまで補正予算で対応してきた恒常的な施策を当初予算に盛り込むこと、③補助金・基金の自己点検結果を要求・要望に反映させること、などだ。
石破前首相時代に編成された2026年度予算は、当初予算だけで122兆円を超え、前年度から大幅に増加した。これに補正予算を加えれば、予算規模はさらに膨らむ。それを踏まえると、今回の概算要求143兆円という数字は、「責任ある積極財政」を掲げる高市政権としては、必ずしも突出した規模には見えない。
政府は、危機管理投資や成長投資を2040年までに370兆円規模とする構想を掲げている。これに比べれば、単年度の予算規模は小さく感じられる。
もっとも、概算要求の数字だけで高市政権の財政政策を判断するのは早計だ。「強く豊かな日本」投資枠には、項目だけを示して金額を記載しない「事項要求」が含まれているからだ。今後の予算編成では、これらについても財務省による査定が行われる。その結果、最終的な予算規模が概算要求から大きく膨らむ可能性がある。
この投資枠については要求額の上限、いわゆるシーリングも撤廃されている。8月31日の概算要求で金額を明記した主な省庁では、経済産業省が6兆3116億円で最大。次いで文部科学省が2兆1000億円、厚生労働省が1兆337億円、農林水産省が4272億円となっている。
つまり、現時点で示されている143兆円という数字は、来年度予算の「上限」を意味するものではない。事項要求を含め、これから年末にかけて行われる予算編成作業が重要になる。
そこで気になるのが、財政政策をめぐる米国との関係だ。
米国で開催されたG20財務相・中央銀行総裁会議に合わせ、ベセント米財務長官と片山さつき財務相、植田和男日銀総裁が相次いで会談した。
ベセント氏はこれまで、高市内閣が推進する政策を一定程度評価してきたことで知られる。一方、最近は日本の金融・財政政策について、より踏み込んだ発言を繰り返している。
とりわけ日銀に対しては、円安を是正するための利上げを期待するような発言が目立つ。そして、日本の積極財政についても懸念を示しているとみられる。
日銀の利上げについては、インフレが続き、円安による輸入物価の上昇が問題となっている現在の日米経済、さらには世界経済の状況から考えれば、理解できないことではない。
問題は、高市政権が推進しようとしている「責任ある積極財政」に対する米国側の姿勢だ。その真意はどこにあるのだろうか。
ロイターが8月31日に配信した記事「マクロスコープ:ベセント氏発言、日本への懸念より明示的 財政政策や利上げに影響も」によると、ベセント氏は「『アベノミクス』の成功を享受し、その流れに任せる(let that run)べきだと思う」と述べたという。
これは、ベセント氏が8月30日にロイターのインタビューに応じ、日本の財政政策について語ったものだ。ロイターによれば、同氏は安倍晋三元首相がデフレ脱却を目指して進めた大規模な金融緩和や財政による需要刺激策を「成功」と評価している。一方、日本は現在、労働市場の規制緩和など政府の関与を減らす「タカイチノミクス」に移行したとの認識を示している。
この説明には、やや違和感がある。
さらにロイターの記事では、複数の日本政府関係者が「米国はこれまでも日本に対し、高市氏の財政政策への懸念を伝えてきた」としている。関係者の一人は、「消費減税なんてやめてしまえ、というのが米国の一貫した本音だ」と説明したという。
果たして、これは本当なのだろうか。ロイターも「アンチ高市」ということなのか。
記事にはさらに興味深い記述がある。「骨太の方針」の策定に関する自民党内の議論に参加した政務三役経験者が、ベセント氏の発言について「政策についての対日要求のレベルが更に上がった印象だ」と語ったという。
その人物は、米国がこれまで示してきた「過度に拡張的な財政政策への懸念」が高市氏に十分伝わっていなかったと判断し、「表立って強い発言をせざるを得なくなったのではないか」と推察している。
ロイター記者による取材に、ややバイアスがかかっているという印象も否めない。しかし、米国が日本の財政・金融政策にこれまで以上に強い関心を示していることをうかがわせる報道ではある。
高市政権は今月、内閣改造と自民党役員人事を控えている。そして来年秋には、自民党総裁選が予定されている。
高市首相にとって、今回の予算編成は実質的に初めてとなる本格的な政策実行の場でもある。「責任ある積極財政」をどこまで予算に反映させられるかが、政権の今後を左右することになるだろう。
前門には党内の反対派という「狼」がいる。そして後門には、米国のベセント財務長官という「虎」が待ち構えているのだろうか。